シムシ国首相、アイゼン。

 カイド国王、アトラ。

 衆族長、周。

 三大国を統べる長達が、今ここに会していた。その張り詰めた空気の中を動けないザクロ。まだ寝る大物クサモチ。

「クサモチ……お主と言う奴は……」

 流石のアトラも、呆れていた。その腹部に一撃蹴りを見舞う。

「おふっ!?」
「起きたか?」
「……もう起きれなさそう……」
「そうか、起きろ」

 その様子を、アイゼンは黙って見ていた。

「……なんでアトラ王いるの……ああ、テレポートスクロールか……」
「そうじゃよ。なるべく来たくはなかったのじゃが、これは来るしかなかったわい」
「……俺、まだ状況飲み込めないんだけど……」
「たわけめ。勝手にカイド王国を出て行きおって。賢者の石強奪の黒幕が、そこにおるということよ。お主はそれだけわかればよいじゃろう」
「……うん、その通り……」

 クサモチはゆっくりと起き上がり、アイゼンを見据えた。だがアイゼンは動かない。

「さて、そろそろ周の顔色が悪くなってきておるし、行くかのう」
「……ふぁああ……寝起きはキツい……」

 アトラは肩や腰を捻って準備体操をしていた。クサモチは雷の玉をいくつも出している。

「……我と戦うか」
アレの復活は断固阻止せねばなるまい。それに友がトチ狂っておるときに、一発ぶん殴って目を覚まさせてやるのが、友情というものじゃ、ろっ!?

 アトラの跳躍。ツインテールが風圧で激しく靡き、少し大きめのジャージが風圧でバタバタと音を立てた。アイゼンはやはりそれを黙って見ていた。繰り出されたアトラの拳が、見えないバリアに止められるのがわかっていたからだ。

「はっ!」

 アトラの気合一発。ガラスの砕けたような効果音。だが実質アイゼンにも、アトラにもダメージはなかった。アトラはすぐさましゃがみ、「……ライジング・アロー……」、後ろからきたクサモチの数百本はあろうかという『雷矢』にあとを任せた。

「……愚かな」

 アイゼンは呟く。そう、鉄壁と言われたアイゼンが、魔法に対する障壁を張っていないわけがなかった。魔法ならば、防御どころか反射もする反射障壁で跳ね返せる。術者は自分で放った攻撃を喰らうことになるのだ。
 だが、『雷矢』の一発目は、アイゼンに直撃した。現れるべきバリアは、現れなかったのだ。

「なっ!」

 『に』は言えず、アイゼンは二撃、三撃、四五六七大量の『雷矢』を喰らった。一撃一撃の威力は低くても、絶え間無く襲いつづける雷矢は、アイゼンに一瞬の呼吸さえ許さなかった。加えて電撃。アイゼンは体中が麻痺し、周を掴んでいた手の力を緩めた。周はその場に落ちて倒れ、アイゼンはまだ襲いつづけてくる雷矢の嵐の中で、思考していた。

(何故だッ!? 何故バリアが出ない!?)

「ぐっ! 貴様っ! ぐあっ! 何をしたああ! ぐっ! アトラぁああ! ぐはっ!」

 まだまだ、続く雷矢の射撃。電撃が体中を巡り、遂にアイゼンは膝を床についた。これだけダメージを喰らったのも、膝をついたのも、アイゼンにとっては始めての経験だった。屈辱だった。

 それに対してのアトラの一言は。

「気合で、どうにかした」

 ……。

 アイゼンの黒いオーラが、密度を増した。

「やべ、『絶対領域』じゃ。クサモチ、そんな魔法じゃ効かぬぞ」
「……この甚振り《いたぶり》感がいいんだが……」
「このドSめ。でかいのを詠唱しておけ。儂がアイゼンをひきつける」
「……命令すんな……」
「言うとる場合か」

 アイゼンの黒いオーラは『雷矢』を全て弾いていた。最早アイゼンの眼中に周は入っていない。今この世界で、おそらくは最強の脅威。賢者の石が失われた今でも、意味不明のこの強さ。カイド国王、

「アトラ! 貴様はここで消しておかねばならぬようだ」

 アイゼンの黒いオーラの範囲が広がっていく。床さえも破壊し、広がっていく。

「よう言うたの、アイゼン。儂も久しぶりに本気を出すとするかのう」

 元老vs元老。果てしない強さの対決が今、始まろうとしていた。

コメント

痺れ武蔵
痺れ武蔵
2007年2月21日11:53

喧嘩ってレベルじゃねーぞ

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