「ぐへへ、ぐへへ」
「……」
「ぐへへ、ぐへへ」
「……ぐへへ」
「真似すんなぁ!」
「なんなんだぁ!?」

 ポチはこれまでに出会ったことのなかった性格の敵に、戸惑った。小柄な黒いローブを纏った不気味な男。明らかに戦士タイプではない。ポチの経験によると、オルゾフは十中八九魔法使いタイプ。しかも嫌らしい、とくれば、状態異常や幻惑系能力者とみて間違いが無い。

(僕の一番苦手なタイプだな。性格も駄目だ。だけど、早くアレックスさんを助けないと……)

 このタイプは、中々戦士系にはキツかった。抗魔力、精神防御が戦士系は乏しいからである。

(一気に勝負を決めるしかないんだけど……)

 オルゾフはポチと一定の距離を保っていた。時間の経過から言えば、ポチは自分自身が既にオルゾフの術中にはまっているであろうことも予測していた。

(迂闊には飛び込めない……)

 歴戦の勘。それは予測としては正解だった。

「ぐへへ、あんた中々、やるなぁ……。修羅場、くぐってきてるね」
「誉めてくれてありがとうございます。ですが僕は、貴方に構っている暇は無い」

 ポチはベルトからナイフを取り出し、オルゾフの額目掛けて投擲した。ナイフは見事にオルゾフの眉間に刺さった。が、オルゾフは倒れる前に霧となって消えた。

(やはり幻惑)

 だとすれば、もう目はあてにならなかった。ポチは両目を瞑り、わずかな音、匂い、気流の変化を全身で感じ取った。

 スキルレベルアップ:感覚【B】

(ヤツは油断している!)

 背後から迫る気配を、ポチは一刀両断した。

「ぎゃああああああ!」
(殺った!)

 目を開けると、まさに今、光の柱が発生したところだった。天使の斉唱が、一人のプレイヤーの『昇天』を確実に告げた。

「幻惑を使って人の目を騙し、背後から仕留めようとするとは……卑劣な奴だった……。その魔力を正しい方向に使っていれば……いや……」

 ポチは言い切らず、その場を立ち去った。苦戦しているであろう、11を助けるために。

 *

 しばらく11を探し回った後、ポチは集落の外の砂漠が燃えているのを発見した。そしてポチは集落の出口へと走り、傷だらけの11を見つけた。

「うわああああああ!」
「だ、大丈夫ですか!」

 11は酷く錯乱していた。ポチを確認した11は、覚束ない足取りでポチへと近づいた。

「あああああ!」
「しっかりしてください!」

 ポチは11をしっかりと抱きとめた。そして同時に腹部に、違和感を感じた。ズブリ、気色の悪い音。

「……アレックス……さん?」
「ぐへへ、ぐへへ。可哀想に。アンタが殺したのは、俺が操ってた一般プレイヤーだったんだよーん! ぐへへ! ひっかかった! ぐへへへへへ! ひっかかったぁ!」

 11は嫌らしい笑い方をした後、小柄な男性へと変貌した。ポチは自分の腹部を貫いた、ショートソードの柄を見た。目をしっかり見開いて、もう一度、見た。

 ……しくじった……か。

 いつのまにか、ポチは倒れていた。

 綺麗な星と、月の夜。

 砂漠にポチの血が、染みていく。

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