82.巻

2007年2月19日 LIVE
「私はヒラタです。カタカナでヒラタです。ミノタと二文字違いです。どうぞよろしくお願いします」

 ご丁寧にどうも。私達はまばらに挨拶をした。

「私は衆の長である『周』の部下……ではないのですが……なんでしょう、脅されて? あ、いや違う違う、頼られて、ですね。貴方達を『チョコ』へ招待するようにと、周さんに『頼られ』まして、今ここにいるわけです、はい」

 変身を解除したヒラタ氏は普通の少年だった。ここは衆、ビスト。宿屋の一室。クサモチさんがまた死んでいる横で、私とポチさん、ザクロさん、そしてヒラタさんがその一室に集まっていた。

「私はミノタウロスになって砂漠を走っていました。その時思いました。ミノタウロスはなんて気高くて強いのだろうと。この話、続けてもいいですか?」

「やめてください」

 身の危険を感じたので止めた。

「残念です。さて、では飛ばしまして。ビストについた私は貴方達を探していました。すると、何故か連れて来いと言われた四人のプレイヤーのうち、二人が戦っているではありませんか。しかも一人は相当興奮なされていた様子だったので、お節介と思いながらも手を出させてもらった次第です。申し訳ありませんでした」
「いえいえ、そんなことは」

 ポチさんが首を振る。

「ありがとうございます。さて、私ヒラタは、貴方達四人をチョコへ招待するようにと、言われているんですね。あの鬼……ゲフンゲフン、周さんから」
「四人? 私もですか?」
「はい、クサモチさん、ポチさん、ザクロさん、そして貴方、11さん。四人ですよ。貴方達四人はもしかしたら今はパーティでは、ないかもしれません。ですが、周さんは確かに四人が、自分、つまりは周さんを訪ねるのを、『視た』そうです」

 未来視。衆の族長、周の未来を視る能力。と聞いている。

「それは多分避けられないことです。いずれ、その『視た』ことは現実になります。ですから、本来周さんは『視た』ことに積極的に介入しません。待てばいずれ実現するのですから。
 でも、今回周さんは、私を貴方達のところへ派遣しました。【視た未来の早期実現】のために、です。
 もちろん、これには理由があります。この理由は貴方達にとっても重要な事柄だと思いますので、よく聞いてくださいね」

 ヒラタさんは指を二本立てた。

「まず一つ。衆の内情です。既に知っている方もいるかもしれませんが、今、この国は二つの勢力に分かれています。『銀』派と、『周』派。つまり内乱です」

 私は初耳だった。

「このビストは、チョコから比較的離れた辺境の地なので、まだ対立の気配はありません。しかし、チョコに近づけば近づくほど、『銀』派と『周』派の対立は深くなっていきます。
 そんな衆を長々と、のんびりと歩くのは危険だと、周さんは考えました。たとえ周さんが『視た』こととはいえ、今まで外れたことがないことは、これからも外すことがないことの、証明にはならないのです。と、周さんは初めて自分の『未来視』が実現するのか、不安になったのですね。反乱は少なからずも周さんにダメージを与えていたのです。あの周さんを弱気にするなんて……話がそれましたね。つまり、周さんは貴方達を守りたかったんです。だから私を派遣しました。一つ目はいいですね?」

 私達はしっかりと頷いた。ヒラタさんは指を一つたたんだ。

「そしてもう一つが、世界です。Live始まって以来、最低最悪な出来事がこの世界で起こるそうです。それをなるべく多くのプレーヤーに知らせるために、貴方達の協力が必要なのです。なるべく早く、ね」

 ヒラタさんはニヤリと笑うと、大きな巻物を取り出した。小さな部屋の床一面を覆ってしまうほど、大きなスクロールを。

「さて、飛びましょうか。周さんのいる集落『チョコ』へ。もう喋るのは面倒になりました。あとは周さんに話してもらいましょう。覚悟はいいですね?」

 スクロールに書いてあった大きな魔方陣から、青い光が溢れだした。それは部屋全体を覆い、やがて音や光を遮断していく。
 続いて、上下の感覚がなくなった。

「長距離テレポート・スクロール(大)か……」

 ポチさんの呟いた言葉が、やけに耳に残った。
 青い閃光!

 

 

 

 

 ちなみにトゥエルは、宿屋の馬小屋で寝ていた。

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