71.宿

2007年2月8日 LIVE
 衆の集落、『ビスト』の家々は、ほとんどがテントだった。三角形や円筒状のテントが大小、大雑把に並んでいた。そういえば、ザクロさんが衆は移民の国だと言っていた気がする。
 道端では赤銅色の肌の男や女が、拳や剣で戦ったりしている光景が普通に目に入った。お互い真剣な眼で戦っていて、周りのギャラリーはどちらが勝つのか賭けているようだった。
 他の国の人々の姿はほとんど見えない。ほとんどが逞しい男性や女性ばかり。しかもほぼ男性。がっかりなんて、していない。
 やはり、初心者(しかも派手なスカーフ)、カイドの魔法使い二人に、大きな白馬という組み合わせは、非常に目立つようだ。衆のプレイヤーはちらちらとこちらを見るが、何も言わない。それが逆に無言のプレッシャーとなった。

「と、とりあえず宿屋を探しましょうか……。クサモチさんが死にかけていますし」
「そ、そうですね……。私の回復魔法でもこれはちょっと……」

 クサモチさんはミイラ化していた。

 数少ない高床式木造建築の宿屋を見つけた。中の主人も、上半身裸でニコニコとしていた。失礼で突然ながら、三国で所属したいランキングをつけると、1.シムシ 2.カイド 3.衆となってしまった。まあこれは仕方がないだろう。うん。
 とりあえずクサモチさんに水をぶっかけて、宿のベッドに放り投げておく。そして私とザクロさんは、周がいるという集落『チョコ』の情報を……。

「……『チョコ』?」
「そこを突っ込んではいけません」
「は、はい」

 私はザクロさんの妙なプレッシャーに黙る。なんだかこの頃コミカルな物語になってきたような。気のせいだろうか。気のせいだろう。『チョコ』の情報を得るため酒場に向かう。
 酒場も数少ない高床式木造建築だった。これをどうやって移動させるのだろう。考えても仕方がないことだし、確かに内部は幾分か涼しい。私は考えるのをやめた。

「いらっしゃい」

 描写する必要はないと思うが、バーテンも上半身裸だった。はい。それが普通なのだろう。
 まだ真昼間なので人影は少ない。カウンターに青と白の鎧を着たプレイヤーが一人、座っているだけだった。

 ……ん?

 肩まで伸びた青い髪。傷だらけの鎧は今までの戦いの激しさを物語っていた。百戦錬磨のオーラを纏った大きな背中。コップを置いた手は生傷だらけだった。

 ……。

「どうしたんですか? 11さん?」

 記憶を探っていた。ザクロさんの声は頭に入らなかった。
 青い髪の戦士は椅子から立ち上がると、私達の方に振り返った。大きな刀傷で塞がった右眼。だが、その顔には見覚えがあった。

「……アレックスさん?」

 久々に呼ばれた本名。この名前を知っているのは……。

「ポチ……さん?」

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