60.再

2007年1月26日 LIVE
 その後、アトラさんと私は、それぞれ知り得るゴッドレスメンバー(と思われる輩達)の情報を交換した。といっても、私は一人しか知らなかったのだが。
 最終的に、アトラさんには情報を罪悪感が湧くほど一方的に貰った。そんなことを気にする素振りも見せず、アトラさんは笑って言った。

「さて、これからお主はどうするのじゃ? 儂はお主を牢屋に入れる気も、カイド王国の一員にする気もないぞ。お主は何処か10に似ているからの。何かに縛られるのを嫌うじゃろう」

 10さんに似ている……なんだか微妙な気持ちになった。とりあえず、質問に答えよう。

「えーと、私は衆に行こうと思っています。まだ、行ったことがないので」
「衆か。あそこは内乱やら何やらでドタバタしておるぞ」
「そうなんですか。でも、10さんは、『周と会え、精一杯楽しめ』って、言っていましたから」
「……ふむ」

 アトラさんは腕を組むと、突然大きな扉の方向に歩き始めた。アトラさんはずっと黙って立っていたクサモチさんとヤミハルさんの間を通って、扉の少し手前で止まった。
 アトラさんが止まったのと同時に、扉が勢いよく開かれた。王の間に入ってきたのは、先ほどの兵士二人と、ザクロさんだった。

「王!」
「王!」

 二人の兵士の声が見事に揃った。

「なんじゃい、五月蝿いのう」

「捕らえます!」
「捕らえます!」

「まあ、待て、待て」

 アトラさんは、私を見て目くじらを立てる二人の兵士を手で制すと、ザクロさんの前へ歩いていった。

「……!」

 怒られると感じたのか、ザクロさんは両手で頭を隠して、眼を閉じた。
 そしてアトラさんは腕を振り上げて……、ザクロさんの肩を軽く叩いた。

「うむ! ザクロにも衆に行ってもらおうかの!」

「え……?」
「え……?」

 私とザクロさんの声が、重なった。

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 翌朝。
 雪は止んでいた。
 久しぶりに見た青空は、空気が綺麗で冷えている為か、透き通って見えた。

「あっ!」

 溶け残った雪で足を滑らせて、ザクロさんが転んだ。

「だ、大丈夫ですか?」
「す、すみません」
「いえ、こちらこそ道連れのような形になってしまって……」
「そ、そんな、違いますよ。こちらが連れていってもらうようなものなので……」
「いえいえ、私のようなものが……」
「いえいえ、私なんて……」
「……そんな!」
「……恐縮!」

 雲はゆっくりと、時々太陽を隠して、流れていった。

 以下、フォロッサ城での会話。抜粋。

(白魔法使いザクロ。王アトラが命じるぞ。今すぐこやつ(私のことを指差す)と衆へ行って、周と会ってこい)
(い、いますぐですか?)
(うむ、いますぐじゃ)

 以上、問答無用でした。

 レンガの道には陽光を反射する溶け残った雪がぽつぽつ。魔法使いや商人達の往来も戻ってきたようだ。それぞれの家の壊れていない煙突から、白い煙がもくもくと出ている。
 本来のフォロッサの姿。一晩だけでこんなに戻るとは思わなかった。やはり慣れているのだろうか。

「さて、行きましょうか、ザクロさん。よろしくお願いしますね」
「はい、えーと……11《イレブン》さん。こちらこそどうぞよろしくお願いします」

 ザクロさんは礼儀正しくお辞儀をした。11。慣れない名前で呼ばれて、私はまたアトラさんの言葉を思い出した。

(その名前隠し君。折角持っているのだから、利用しない手はないぞ。これからゴッドレスを追っていくのなら、どんな油断もしてはならないのじゃからな。名前だけで敵を殺せるプレイヤーがおるやもしれぬ。これからは用心の為に、偽名を名乗ると良いじゃろう。あやつと同じように、な)

 11《イレブン》。何も考えずに、名乗った。10さんが、こんな名前を私が名乗っていると知ったら、きっと大爆笑するだろう。間違いない。地面をばんばん叩きやがるに違いない。
 緩やかなカーブの道を降りていくと、フォロッサの町の出入り口が見えた。フォロッサに到着した時、雪が降る中、私とともに馬車を降りる10さんの姿が、ふと見えて、瞬きすると消えた。……幻覚まで見るとは。これからは10症候群と呼ぼう。

「11さん?」
「え? ああ……行きましょうか……」

 止まっている馬車に行き先を告げる。ザクロさんと荷台に乗り込み、出発を待つ。少し暗い荷台の中で、私は壁にもたれて力を抜いた。
 持て余す時間。またまた、アトラさんの言葉を思い出す。

(10のコレクションの中に、赤いスカーフがあっただろう? 本当に効果があるのかわからない。だが10は、信じていたな。そのスカーフの効果は……)

 ガタン、と音がして、馬車が走り始めた。ザクロさんの表情は、心なしかワクワクしているようにも見える。ザクロさんはカイド王国から出るのが久しぶりで、楽しみらしい。
 荷台の隙間から、首を出してみる。馬車はそれなりのスピードになっていた。遠ざかるフォロッサの都市。とんでもないことばかりだった。悲しいことも、少しあった。

 私の首に巻かれていた、10さんの赤いスカーフが、風になびいた。

(望めば必ず、また会える)

「再会の……スカーフ……」

 呟きは風とともに、フォロッサの冷たい空気の中へ、溶けていった。

 

 私とザクロさんが乗っていた荷台の上。つまり、荷台の屋根の上で寝転がって陽光を浴びていた緑の魔法使いに、私達が気付くのはかなり後となる。

 第二章 カイド編 完

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