「隻眼の……剣士」
聞いたことのない人物名だった。
「今、シムシで急速に名を上げておる剣士じゃ。青と白の鎧を装備しているくせに、ドス黒い気を放っておったわ」
アトラさんは、忌々しそうに事の次第を話し始めた。階段を降りきっても、アトラさんは私にゆっくりと近づいてきた。
「リヴァイアサンの襲撃で、城の警備が手薄になったところを、襲撃。単純じゃが最も確実な方法じゃ。実際にリヴァイアサン襲撃時、この王の間には儂とそこの魔法使い、クサモチしかいなかった」
前髪で眼が隠れている魔法使いが、こちらに背中を向けて、何かブツブツと呟いていた。表情は陰になっていて、全く見えない。
「……殺す殺す殺す殺す……」
聞かなかったことにした。
「今日の警備はヤミハルとクサモチじゃったが、ヤミハルはリヴァイアサンの方に回ってもらっていた。敵の思い通りになった、というわけじゃな」
黒いドラゴンの上に乗っている黒い鎧を着た人は、話を聞きながら、腕を組んでいた。黒いヘルムで顔は全く見えない。この人が、ヤミハル。ビギナの酒場を焼いたドラゴンテイマーと、同一人物なのだろうか。……今は関係ないことだが。
「初めに異常に気付いたのはクサモチじゃ。だが、お主と同じように初撃が当たらなかった所で、勝負は決まっておった」
いつのまにか目の前に、アトラさんは立っていた。私と同じぐらい、もしくは私より少し高いくらいの背丈。眼の位置もほぼ同じ。
「剣士の癖に、幻惑など使いよって。しかも相当な使い手よ。気付いたら、賢者の石はなくなっていた。儂の眼から抜き取られておったわ」
アトラさんは眼を私の眼に、近づけた。近い。物凄く近い。
よく見ると、アトラさんの左眼は瞬きをしていなかった。遠くからは同じに見えた二つの眼、瞳は、微妙に色合いが違った。
「この左眼は、義眼じゃ」
何も映さないアトラさんの左眼。
「儂らは絶対に許さぬよ。シムシ国、アイゼン、隻眼の剣士、【ポチ】……」
――聞いたことのある、人物名だった。
聞いたことのない人物名だった。
「今、シムシで急速に名を上げておる剣士じゃ。青と白の鎧を装備しているくせに、ドス黒い気を放っておったわ」
アトラさんは、忌々しそうに事の次第を話し始めた。階段を降りきっても、アトラさんは私にゆっくりと近づいてきた。
「リヴァイアサンの襲撃で、城の警備が手薄になったところを、襲撃。単純じゃが最も確実な方法じゃ。実際にリヴァイアサン襲撃時、この王の間には儂とそこの魔法使い、クサモチしかいなかった」
前髪で眼が隠れている魔法使いが、こちらに背中を向けて、何かブツブツと呟いていた。表情は陰になっていて、全く見えない。
「……殺す殺す殺す殺す……」
聞かなかったことにした。
「今日の警備はヤミハルとクサモチじゃったが、ヤミハルはリヴァイアサンの方に回ってもらっていた。敵の思い通りになった、というわけじゃな」
黒いドラゴンの上に乗っている黒い鎧を着た人は、話を聞きながら、腕を組んでいた。黒いヘルムで顔は全く見えない。この人が、ヤミハル。ビギナの酒場を焼いたドラゴンテイマーと、同一人物なのだろうか。……今は関係ないことだが。
「初めに異常に気付いたのはクサモチじゃ。だが、お主と同じように初撃が当たらなかった所で、勝負は決まっておった」
いつのまにか目の前に、アトラさんは立っていた。私と同じぐらい、もしくは私より少し高いくらいの背丈。眼の位置もほぼ同じ。
「剣士の癖に、幻惑など使いよって。しかも相当な使い手よ。気付いたら、賢者の石はなくなっていた。儂の眼から抜き取られておったわ」
アトラさんは眼を私の眼に、近づけた。近い。物凄く近い。
よく見ると、アトラさんの左眼は瞬きをしていなかった。遠くからは同じに見えた二つの眼、瞳は、微妙に色合いが違った。
「この左眼は、義眼じゃ」
何も映さないアトラさんの左眼。
「儂らは絶対に許さぬよ。シムシ国、アイゼン、隻眼の剣士、【ポチ】……」
――聞いたことのある、人物名だった。
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