「……」
「どうしたの」

 声をかけられた。逆にびっくり。

「……なんでもない」
「そう」

「……」
「……」

 フォロッサ城、王の間の扉の前。
 今日の護衛当番は俺とクサモチだった。この組み合わせは非常に珍しい。
 元々無口である俺と、必要なこと以外喋らないクサモチ。必要なことを喋らないと言うよりは、無駄なことを喋るのは面倒、が適当なのかもしれない。

「……」
「……」

 そんな二人の空間。こうなるのは必然。初期の会話は奇跡。

 ――沈黙は嫌いではない。

「……」
「……」

 嫌いではないが、

「……」
「……」

 退屈だった。

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 番外・『ヤミハルの考え事』

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 俺は退屈になると、考え事をしてしまう。思い出してしまう。だから退屈は嫌いだ。
 ビギナの酒場で、無礼なことを言ったプレイヤー。あまつさえ俺のドラゴンに変な術までかけやがった。
 お陰で俺はビギナの街を燃やした犯人として手配されていた(勿論『 』中立国限定)。もうビギナの酒場でおいしいチョコレートケーキを食べることはできない。本当になんだったんだ、あの男は。この俺の怒りは、やつをドラゴンの顎で百回噛み砕いたとしても晴れそうになかった。ブレス百も追加。

「……」
「……」

 やめようやめよう。こんなことは考えてもどうにかなる類のものではなかった。考え事なんて大体そんなものばかりなのかもしれないが。いや、そうでもないか。意味もなく否定してみる。

「……」
「……」

 それにしても、本当に喋らない。クサモチ。カイド王国で一、二を争う力の魔法使いと言われながら(なんと単純な力では王を超えるとかなんとか)、いつも面倒そうにして戦闘には参加しない。
 変わっている。
 城の中では『変わり者』『怠け者』とひどい言われようである。
 当初は俺もその力を疑っていたが、一度深夜に五月蝿く叫んでいたホワイトウルフの群れを、

『五月蝿い』

 の一言。魔法を唱え、全て灰にしてしまったことがある。
 その時俺はすぐ近くにいたのだが、物凄い速さで意味不明な言語をブツブツと唱えていたクサモチからは少し離れた。

「……」
「……」

 まあ、力は本物だと言うことだ。

 カイド王とは何時から会ってないんだっけ。シムシは何処まで大きくなるつもりなのだろう。護衛が終わったらドラゴンの鱗磨きをやろうかな。ドラゴンはしばらく召喚してないから退屈をしているだろう。『退屈』は、俺とドラゴンの最大の敵だ。

「……」
「……」

 リヴァイアサン襲撃の報が入るのは、それから二時間後のことにある。

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