15.王

2006年12月22日 LIVE
 人の波に流された経験は初めてだった。現実でもそうそうない。
 周りを見渡してみると、いつのまにか人影はまばらになっていた。アメツキさんの姿はもちろんない。どうやってここまで来たのかもわからない。
 ……あれ? 私は迷子スキルもB以上なのかな。
 どうやら流されるまま住宅地から出て、工場区のような場所に迷い込んだようだが、初めて来た都市なのでどうしようもない。何処だろうここは。よし、こうなったら、アメツキさんがテレポートで来てくれるのを待つ。他力本願だ。アメツキさんはテレポートをするのが嫌がっていたから、しばらくは自分の足で探してくれるかもしれない。なんだか悪いことをした気分だ。いや、実際悪いことをしているか。
 ……暇だったので、考え事をすることにした。下手に動かないほうがいいだろうしね。うん。

 ……国に所属する、というのはどういうことなのだろう? 実を言うと私は、何処の国にも所属するつもりはなかった。折角自由度の高いゲームをプレイしているのに、何故わざわざ国に所属して制限を多くする必要があるのか、自分を縛る必要があるのか、あまりわからなかったからだ。もちろん色々な利益はあるだろう。現実の組織、政府と同じように、団体でしかできないことはある。例えば大きな敵の打倒、対PKに多人数はそれだけで役に立つ。大きなコミュニティでのアイテムや情報の交換なども考えると、やはり国に所属した方が利益になるとは思う。が、それらと『自由』を天秤にかけると、圧倒的に『自由』の方が重いのが私だった。『利益』は『自由』の重さで空に勢いよく飛んでいくのだった。
 だらだらと考えていると、突然後ろから声をかけられた。
「おや? 失礼ですが、まだ初心者の方ですかな?」
 振り返ると、白と青の重甲冑を着た壮年の男性が立っていた。胸のプレートには大きな白い十字架が描かれている。脇に差されている剣は物凄い長さと幅だ。両手でなければ持てないであろう大きさ。全体的に装備品の装飾は豪華で高級感溢れている。髪は白髪で、白いヒゲと眉毛も顔の半分を覆っていた。つまりその壮年の男性の顔は、青い眼とその周りの肌色以外、真っ白な状態だった。刻まれた皺は表情の固さを物語っているような気がしたが、
「ふふ、スカウトされてきたんでしょう?」
 すぐに破顔したので印象は悪くなかった。
 威圧感は物凄いものを感じ、その力の差も私は測れたが、何故か嫌な予感はしなかった。危険はないと考えて良かった。
 しかし、私は、気付く。直感で。
 ああ、この人……        

 シムシ国首相、アイゼンだな。

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