白の額縁

2006年11月11日
「ねえ、お姉ちゃん」
「……何だ」

 狭くも、広くもない和室で、姉弟が並んで座っていた。日は既に沈みかけ、線香の匂いと夕日のオレンジ色、そして夜の影が部屋を満たしていた。窓枠の形の影が、部屋を区切る。
 和室の半分は既に夜の黒が支配していた。弟の顔は影で半分隠れていた。小学生になるかならないか、まだ幼く、あどけない表情。いつもと違う家や姉、周りの様子に、ただ戸惑っているようにも見えた。

「お父さんと、お母さん、何処?」

 弟の、純粋な、疑問。

「……」

 影に完全に隠れた姉の方は、着ていた高校の制服も黒かったため、まるで影に取り込まれているようだった。俯き、瞬きもせず、ただ一心に、何かを考えていた。

「お姉ちゃん?」

 弟は不安になる。

「大丈夫だ」

 姉は敏感に弟の不安を感じ取り、立ち上がった。その眼に涙はない。
 静かに、力強く姉は歩き出す。弟の手をとり、そのまま抱き上げる。その動作は優しかった。

 綺麗な黒髪、母によく似た匂いと、

「大丈夫だ」

 凛とした声、そして瞳。その声に震えはなく、その瞳に迷いはない。

 安心した弟は、そのまま眠りについた。
 夕日のオレンジ色はいつのまにか消えて、夜の黒がその部屋を満たしていた。月と星の明かりが優しい光をくれて、その間も姉はずっと弟を抱き続け、両親の遺骨、写真、思い出を見つめて

 姉は、涙を、 ―― 一粒だけ

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