100、その形 【そのかたち】
2006年7月14日 100題 コメント (2)・混沌の海
そこは異空間だった。
そこには、あらゆる要素があって、あらゆる要素がなかった。
上下がない。左右がない。重力がない。けれど、僕はいる。
そして、黒部も……いる。
「やあ、親友」
「久しぶり、親友」
どちらが言ったのか、わからない。どちらが聞いたのか、わからない。でも、それでいいとも思う。
許されない暴風
――まだ……まだ。
僕は、この為に。
「カミギがきたよ。俺の存在がどうとか、なんとか、言ってたな」
「そんなこと関係ないのにね。僕は僕で、君は君だから」
「そうだよな。俺は心と記憶を研究者に作られた存在だが、君も体は研究者に作られた存在だろう。俺たちの元になった存在(オリジナル)の黒部洋は俺たちとは違う存在だ」
「少し体や心が僕たちに似すぎてるってだけの存在だね」
「俺の体は世界の力で君に作ってもらったし、君の心はあの研究所を抜け出した後に自分で作ったものだろう?」
「僕たちは二つに別れても」
「足りないものを補えた」
結果、こうして話し合えている。
「しかし……あそこまで世界が……いや世間が……辛いものだとは、思わなかった」
「その時まだ眠っているだけだった君、黒部……は本当は君じゃないけど、ややこしいから黒部でいいよね」
「いいよ」
「その時まだ眠っているだけだった君、黒部の心は」
「モロに影響を受けちゃって、今こうしているわけだ」
ぐるぐると、禍々しく、憎しみ、悲しみ、黒の感情が蠢く空間。
――この空間は、黒部のココロ、色の具象。
「あのときの色が、俺の全てだったからね」
と言いながら、黒の王は両手を広げた。それに呼応するように、黒い空間が唸る。叫ぶ。訴える。死ね、死ね、憎い、死ね。ホロビロ。
憎しみの暴風
「そう、これが、俺の全て。君に託された全てが、黒色だったとは……」
「ごめん、ごめんなさい、申し訳ありませんでした」
それは平謝りするしかない。
「そのお陰で君は『白』になったわけだが……すっかり文字通り、色々染まってしまって……。残念だよ、親友」
「……うん、真っ白ではなくなった」
突然だが、白の特性は『色の操作』だ。
発現者の時はただ単に、『染まらない』能力だと思っていた。絶対に傷つかない、失われない、染まらない。そんな、無敵な能力!だと。
……まぁ、あながち間違いではなかったのだが。
その『染まらない』のは白の能力の一つでしかなかった。白の特性は 善良、神聖、清潔、素直、無等などだ。発現者のときは『神聖』や『清潔』辺りだけが発現していた。『清潔』は汚れがなく、綺麗なこと。『神聖』は穢れがなく、尊く、清らかで、冒しがたいこと。うむ、確かに、そう、なのだが。
矛盾といえば矛盾。白の特性には『素直』や『無』なんてものもある。というか無彩色の『白』自体が、他の有彩色や明度の低い黒、灰色等に染まるために在るようなものなのだ。
――色が他の色に染まる。それはまだ、良いのだが。
その『染まり具合』を操作する、なんてことは不可能である。(と、断言する本人はそれを操作している矛盾。既に僕の手首から先は全部消えている)
しかし、何故か僕……『白』はそれが可能なのだ。(矛盾)
今の僕は、大まかに言えば『色』を操作できる。
触れた『色』を自分の『色』として、使用することができる。
そして――
悲しみの暴風
―― あれ?
「――お互い、時間がないようだね」
―― 結構大事なこと ―― でも
「――そうだね、ヨウ」
「……では……ここに、何を、しにきた? 我が親友、エイスケ?」
……
……僕の、
……今、現在、 ――存在する目的。
――。
「君を消し去りに来たのさ、ヨウ」
――――――――ォォ―――ォォオォ――――ォオオオオオ―――――オオオオオオオオオオオオオオ!
全身を赤の発現で、フルパワー、全力投球、全力疾走、限界突破。
幸い、黒色に染まりに染まっているとはいえ、この空間には世界の力が満ちていた。あとは、蛇口をどこまで開けれるかだ。
――音もなく、そっと、
――僕の全力の、渾身の、一撃が、
――ヨウの腹部に入った。
空間が歪み、黒の背景が歪み、そこから赤き空が、顔を出して、
暗雲を突き抜けた――ヨウと僕は殴りあう。
純粋に、ただただ、殴りあう。
頬にいい一撃が入った。痛いなこのやろう。僕はお返しにヨウの頬に拳を入れる。それをさらに返されて、わき腹を蹴られる。律儀じゃないか、と僕も蹴りをヨウの顔に入れようとして空振り。体制を崩したところに肘が僕の鳩尾に入っていた。僕は吹っ飛ばされるヨウとの距離が空く。全身を包む赤のオーラによって、影でできた暗雲を足場にすることができた。勿論それはヨウも同じ。お互いしゃがむような体制で後ろに滑る勢いを殺し、そして対峙する。
すっかり夜が明けた赤い空。
ズキン ズキ暴風ン ズキン
殴られた痛みじゃないことは、わかっている。
「俺を消し去る、か」
かなり距離が空いていても、ヨウの明瞭な声は僕の耳に入ってきた。
「――どうしてだ?」
心底疑問だ、という風にヨウは首を傾げる。
「君が、世界の敵だから」
僕は当然のように答える。
「君は、不気味な泡か」
リメイク版では消えるだろうな。その台詞。
「ということは……。君は、世界を守るために、俺を消し去るわけだな」
確認するようにヨウは言う。
「そうなるね」
その通りだから。
「おいおい、この世界こんなのにして、」
ヨウは足場、暗雲を指差した。もしくはその下の悲惨な状況のニホンを指差したのかもしれない。または地球か。
「俺を生み出したのは誰だよ」
そしてヨウは自分を指差した。僕です。
「ちぇー、やっぱり少しは黒を残しとけば良かったな。『白』だから『善良』ってか?」
「いや、今でも充分、僕は黒くなってるよ」
忘れがちだが暴風、暴風
世界の憎しみの声は、絶えず。
世界の矛盾訂正の力は、絶えず。
(何、自分、見失ってんだよ)
でも、あの人の声も、絶えず。
「――でもね、ヨウ」
自然に、声が出る。
「――うん?」
ヨウは先を促す。
「――僕の為に、怒ってくれた人がいたんだ」
(そーだよ、ばかもん)
ばかもんって……。
「俺はいつも誰かから恨まれてるけど」
ヨウはつまらなさそうにしている。
「僕のことを、心配してくれた人がいるんだ」
(背負いこみすぎ。重量過多。肩の力を抜け)
(心配させる方が悪い。お前も、シュウもな)
――あ、良かった……まだ在る。
初めて怒られて、殴られて、痛かった。でも、嬉しかった。その感覚は、その感動は、まだ、在る。
「……ふーん」
ヨウは腕を組み、納得したかのように頷く。
「なら、仕方がないな」
ただ、ただ、暴風
とん、と僕は跳躍する。
(まだ、覚えている)
消えかけた足で疾走する。
(初めて、僕が生きている人だと言ってくれた人)
(初めて、僕のことを本気で怒ってくれた人)
「僕は、その人を守るために」
――世界を守ろう。
その一言と、拳を、ヨウに叩きつけた。
――。
ピシ
空気が、凍る。
「随分勝手だな」
拳は、ヨウに届いてさえいない。
「――ま、それが、人間なんだろうな……。
しかし、人間は、世界は、今から消える。だって俺は、そういう存在だから、以上」
黒いオーラは禍々しく、考えられない密度でヨウを取り巻いていた。
危険危険危険危険
ズドン
とてつもなく、痛く、内臓が潰れた、骨が砕けた、全てが壊れた、がしゃん、まだ人間に近い証拠だった。
腹に穴が開いてもおかしくないほどの衝撃。幸い、腹から向こう側が見えるような状態にはならなかったが、やばい。暗雲の上をごろごろと勢いのまま転がる。この暗雲の影は既に混合してしまったのか、襲ってくることはなかった。しかし、黒い影など、あの一つの存在。黒部ヨウに比べれば
アラートアラートアラートアラート
ズゴォ
後頭部を鷲掴みにされてそのまま暗雲に叩きつけられる。意識が途切れそうになって存在が希薄になる。腕はほとんど消えていた。反撃する手段がない。手がないから。ははは。
消滅
僕は頭を鷲掴みにされたまま持ち上げられる。……やばい。
消える暴風、それを超える暴力
今の状態で、僕の意識を消されたら。
確実に僕の存在は消える
― 消 滅 ―
ミシミシと、頭部が圧迫されていく。
「さよなら、親友」
―― …… ハァ
やってはいけないこと。
世界には沢山あるようだが、本当にやってはいけないことは実は少ない。ある行為をやったときに、取り返しがつかなくなり、後悔してしまうことはよくある。しかし後悔したとしても、その行為はやってはいけないことにならない。やらない方がいいことなのだ。
だから、その行為自体が決定的な間違い。
そんなやっては、やってはいけないことは、少ない。
今、僕はそれを実行した
一時、赤で塗りつぶした僕のキャンパスに、
緑をぽたりと、垂らした
――
―― ――
―― ―― ―― 極光
光。 黄 光。 黄 黄 光。
赤 × 緑 = 極 光の 黄 色。
黄黄黄黄黄黄黄黄黄黄黄黄黄黄黄
日本全 に広がり つあった暗 の 三割が削 た。
ぼくのそ んざいも けず
あ れ?
駄 だ 世 界 に 代 弁
を
・『 』
言葉を失ったシラセの代弁をする。
シラセのやったことは、色と色との混合である。本来色同士が混合することはありえない。『染まる』ことや、違う色が同じキャンパスで『ひしめきあう』ことはあっても、混合することは、ありえない。 ありえてはいけない。
その結果がどうなったか。 赤×緑=黄の結果が。
極光。その極光は全て消し去ったとまでは言わなくても、その効果は凄まじいの一言だった。クロベは消滅一歩手前まで、暗雲は全体の約三割が削れてしまった。当然、シラセの存在は最早シラセと呼べないものにまで減退した。
さて、ここまでの説明で重要だったのはクロベがまだ消えていなかったということだ。消滅一歩手前と言えども、クロベは生き延びた。クロベという存在は消えてはいなかった。
「が……は……」
削れた暗雲には所々穴が空いている。だがまだ、全てが消え去ったわけではないと、クロベは再生を試みる。
「おぉお……シラ……セ……」
傍らに、消えかけているシラセがいる。消えかけた体はまだ薄く発光していた。眼は虚ろで、口は開けっ放し、腕と足はもう、ない。廃人と同じような状態だった。
「エイ……スケ……」
クロベの声には憎しみも悲しみも世界の声もない。一人の人間、クロベとして、ただ、一言。
「ざん……ねん……だったな」
――。
――。
「残念……じゃないぜ」
シラセの動かない口から、はっきりとした言葉。クロベは半分だけになった顔を驚きに変える。
「シラセ……お前、なぁ……」
シラセは自分で、自分に、話しかけていた。いや、違う、別人が、シラセに話しかけていた。
「まぁ、しょうがねぇか。これが、最後だろ。やるぞ」
黄色く発光したシラセの体が、 さらに、 さらに、 白に――近づいた。
「二人で姉ちゃん守ろうぜ」
青×緑×赤
------------------------------------------------------
エピローグ・エンディング・後日談・それぞれ へ
そこは異空間だった。
そこには、あらゆる要素があって、あらゆる要素がなかった。
上下がない。左右がない。重力がない。けれど、僕はいる。
そして、黒部も……いる。
「やあ、親友」
「久しぶり、親友」
どちらが言ったのか、わからない。どちらが聞いたのか、わからない。でも、それでいいとも思う。
許されない暴風
――まだ……まだ。
僕は、この為に。
「カミギがきたよ。俺の存在がどうとか、なんとか、言ってたな」
「そんなこと関係ないのにね。僕は僕で、君は君だから」
「そうだよな。俺は心と記憶を研究者に作られた存在だが、君も体は研究者に作られた存在だろう。俺たちの元になった存在(オリジナル)の黒部洋は俺たちとは違う存在だ」
「少し体や心が僕たちに似すぎてるってだけの存在だね」
「俺の体は世界の力で君に作ってもらったし、君の心はあの研究所を抜け出した後に自分で作ったものだろう?」
「僕たちは二つに別れても」
「足りないものを補えた」
結果、こうして話し合えている。
「しかし……あそこまで世界が……いや世間が……辛いものだとは、思わなかった」
「その時まだ眠っているだけだった君、黒部……は本当は君じゃないけど、ややこしいから黒部でいいよね」
「いいよ」
「その時まだ眠っているだけだった君、黒部の心は」
「モロに影響を受けちゃって、今こうしているわけだ」
ぐるぐると、禍々しく、憎しみ、悲しみ、黒の感情が蠢く空間。
――この空間は、黒部のココロ、色の具象。
「あのときの色が、俺の全てだったからね」
と言いながら、黒の王は両手を広げた。それに呼応するように、黒い空間が唸る。叫ぶ。訴える。死ね、死ね、憎い、死ね。ホロビロ。
憎しみの暴風
「そう、これが、俺の全て。君に託された全てが、黒色だったとは……」
「ごめん、ごめんなさい、申し訳ありませんでした」
それは平謝りするしかない。
「そのお陰で君は『白』になったわけだが……すっかり文字通り、色々染まってしまって……。残念だよ、親友」
「……うん、真っ白ではなくなった」
突然だが、白の特性は『色の操作』だ。
発現者の時はただ単に、『染まらない』能力だと思っていた。絶対に傷つかない、失われない、染まらない。そんな、無敵な能力!だと。
……まぁ、あながち間違いではなかったのだが。
その『染まらない』のは白の能力の一つでしかなかった。白の特性は 善良、神聖、清潔、素直、無等などだ。発現者のときは『神聖』や『清潔』辺りだけが発現していた。『清潔』は汚れがなく、綺麗なこと。『神聖』は穢れがなく、尊く、清らかで、冒しがたいこと。うむ、確かに、そう、なのだが。
矛盾といえば矛盾。白の特性には『素直』や『無』なんてものもある。というか無彩色の『白』自体が、他の有彩色や明度の低い黒、灰色等に染まるために在るようなものなのだ。
――色が他の色に染まる。それはまだ、良いのだが。
その『染まり具合』を操作する、なんてことは不可能である。(と、断言する本人はそれを操作している矛盾。既に僕の手首から先は全部消えている)
しかし、何故か僕……『白』はそれが可能なのだ。(矛盾)
今の僕は、大まかに言えば『色』を操作できる。
触れた『色』を自分の『色』として、使用することができる。
そして――
悲しみの暴風
―― あれ?
「――お互い、時間がないようだね」
―― 結構大事なこと ―― でも
「――そうだね、ヨウ」
「……では……ここに、何を、しにきた? 我が親友、エイスケ?」
……
……僕の、
……今、現在、 ――存在する目的。
――。
「君を消し去りに来たのさ、ヨウ」
――――――――ォォ―――ォォオォ――――ォオオオオオ―――――オオオオオオオオオオオオオオ!
全身を赤の発現で、フルパワー、全力投球、全力疾走、限界突破。
幸い、黒色に染まりに染まっているとはいえ、この空間には世界の力が満ちていた。あとは、蛇口をどこまで開けれるかだ。
――音もなく、そっと、
――僕の全力の、渾身の、一撃が、
――ヨウの腹部に入った。
空間が歪み、黒の背景が歪み、そこから赤き空が、顔を出して、
暗雲を突き抜けた――ヨウと僕は殴りあう。
純粋に、ただただ、殴りあう。
頬にいい一撃が入った。痛いなこのやろう。僕はお返しにヨウの頬に拳を入れる。それをさらに返されて、わき腹を蹴られる。律儀じゃないか、と僕も蹴りをヨウの顔に入れようとして空振り。体制を崩したところに肘が僕の鳩尾に入っていた。僕は吹っ飛ばされるヨウとの距離が空く。全身を包む赤のオーラによって、影でできた暗雲を足場にすることができた。勿論それはヨウも同じ。お互いしゃがむような体制で後ろに滑る勢いを殺し、そして対峙する。
すっかり夜が明けた赤い空。
ズキン ズキ暴風ン ズキン
殴られた痛みじゃないことは、わかっている。
「俺を消し去る、か」
かなり距離が空いていても、ヨウの明瞭な声は僕の耳に入ってきた。
「――どうしてだ?」
心底疑問だ、という風にヨウは首を傾げる。
「君が、世界の敵だから」
僕は当然のように答える。
「君は、不気味な泡か」
リメイク版では消えるだろうな。その台詞。
「ということは……。君は、世界を守るために、俺を消し去るわけだな」
確認するようにヨウは言う。
「そうなるね」
その通りだから。
「おいおい、この世界こんなのにして、」
ヨウは足場、暗雲を指差した。もしくはその下の悲惨な状況のニホンを指差したのかもしれない。または地球か。
「俺を生み出したのは誰だよ」
そしてヨウは自分を指差した。僕です。
「ちぇー、やっぱり少しは黒を残しとけば良かったな。『白』だから『善良』ってか?」
「いや、今でも充分、僕は黒くなってるよ」
忘れがちだが暴風、暴風
世界の憎しみの声は、絶えず。
世界の矛盾訂正の力は、絶えず。
(何、自分、見失ってんだよ)
でも、あの人の声も、絶えず。
「――でもね、ヨウ」
自然に、声が出る。
「――うん?」
ヨウは先を促す。
「――僕の為に、怒ってくれた人がいたんだ」
(そーだよ、ばかもん)
ばかもんって……。
「俺はいつも誰かから恨まれてるけど」
ヨウはつまらなさそうにしている。
「僕のことを、心配してくれた人がいるんだ」
(背負いこみすぎ。重量過多。肩の力を抜け)
(心配させる方が悪い。お前も、シュウもな)
――あ、良かった……まだ在る。
初めて怒られて、殴られて、痛かった。でも、嬉しかった。その感覚は、その感動は、まだ、在る。
「……ふーん」
ヨウは腕を組み、納得したかのように頷く。
「なら、仕方がないな」
ただ、ただ、暴風
とん、と僕は跳躍する。
(まだ、覚えている)
消えかけた足で疾走する。
(初めて、僕が生きている人だと言ってくれた人)
(初めて、僕のことを本気で怒ってくれた人)
「僕は、その人を守るために」
――世界を守ろう。
その一言と、拳を、ヨウに叩きつけた。
――。
ピシ
空気が、凍る。
「随分勝手だな」
拳は、ヨウに届いてさえいない。
「――ま、それが、人間なんだろうな……。
しかし、人間は、世界は、今から消える。だって俺は、そういう存在だから、以上」
黒いオーラは禍々しく、考えられない密度でヨウを取り巻いていた。
危険危険危険危険
ズドン
とてつもなく、痛く、内臓が潰れた、骨が砕けた、全てが壊れた、がしゃん、まだ人間に近い証拠だった。
腹に穴が開いてもおかしくないほどの衝撃。幸い、腹から向こう側が見えるような状態にはならなかったが、やばい。暗雲の上をごろごろと勢いのまま転がる。この暗雲の影は既に混合してしまったのか、襲ってくることはなかった。しかし、黒い影など、あの一つの存在。黒部ヨウに比べれば
アラートアラートアラートアラート
ズゴォ
後頭部を鷲掴みにされてそのまま暗雲に叩きつけられる。意識が途切れそうになって存在が希薄になる。腕はほとんど消えていた。反撃する手段がない。手がないから。ははは。
消滅
僕は頭を鷲掴みにされたまま持ち上げられる。……やばい。
消える暴風、それを超える暴力
今の状態で、僕の意識を消されたら。
確実に僕の存在は消える
― 消 滅 ―
ミシミシと、頭部が圧迫されていく。
「さよなら、親友」
―― …… ハァ
やってはいけないこと。
世界には沢山あるようだが、本当にやってはいけないことは実は少ない。ある行為をやったときに、取り返しがつかなくなり、後悔してしまうことはよくある。しかし後悔したとしても、その行為はやってはいけないことにならない。やらない方がいいことなのだ。
だから、その行為自体が決定的な間違い。
そんなやっては、やってはいけないことは、少ない。
今、僕はそれを実行した
一時、赤で塗りつぶした僕のキャンパスに、
――
―― ――
―― ―― ―― 極光
光。 黄 光。 黄 黄 光。
赤 × 緑 = 極 光の 黄 色。
黄黄黄黄黄黄黄黄黄黄黄黄黄黄黄
日本全 に広がり つあった暗 の 三割が削 た。
ぼくのそ んざいも けず
あ れ?
駄 だ 世 界 に 代 弁
を
・『 』
言葉を失ったシラセの代弁をする。
シラセのやったことは、色と色との混合である。本来色同士が混合することはありえない。『染まる』ことや、違う色が同じキャンパスで『ひしめきあう』ことはあっても、混合することは、ありえない。 ありえてはいけない。
その結果がどうなったか。 赤×緑=黄の結果が。
極光。その極光は全て消し去ったとまでは言わなくても、その効果は凄まじいの一言だった。クロベは消滅一歩手前まで、暗雲は全体の約三割が削れてしまった。当然、シラセの存在は最早シラセと呼べないものにまで減退した。
さて、ここまでの説明で重要だったのはクロベがまだ消えていなかったということだ。消滅一歩手前と言えども、クロベは生き延びた。クロベという存在は消えてはいなかった。
「が……は……」
削れた暗雲には所々穴が空いている。だがまだ、全てが消え去ったわけではないと、クロベは再生を試みる。
「おぉお……シラ……セ……」
傍らに、消えかけているシラセがいる。消えかけた体はまだ薄く発光していた。眼は虚ろで、口は開けっ放し、腕と足はもう、ない。廃人と同じような状態だった。
「エイ……スケ……」
クロベの声には憎しみも悲しみも世界の声もない。一人の人間、クロベとして、ただ、一言。
「ざん……ねん……だったな」
――。
――。
「残念……じゃないぜ」
シラセの動かない口から、はっきりとした言葉。クロベは半分だけになった顔を驚きに変える。
「シラセ……お前、なぁ……」
シラセは自分で、自分に、話しかけていた。いや、違う、別人が、シラセに話しかけていた。
「まぁ、しょうがねぇか。これが、最後だろ。やるぞ」
黄色く発光したシラセの体が、 さらに、 さらに、 白に――近づいた。
「二人で姉ちゃん守ろうぜ」
青×緑×赤
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エピローグ・エンディング・後日談・それぞれ へ
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