98、無駄な夢 【むだなゆめ】
2006年7月12日 100題 コメント (1) 世界は様々な要素から成り立っている。
希望、絶望、無駄な夢。
コンクリート、アスファルト。
人間、犬、猫、ネズミ、牛。
雑草、クローバー、桜の木。
空、大地、雲、太陽。
叶えられること、叶えられないこと。
人の死、受け継がれること。
・組織『赤紅』リーダー 余談
「モクバさん!」
「おーう、どうした」
振り向かずに通信士の声に答えた人物。短く切られた赤い髪。長身。ハスキーボイス。三十台前半だが、何十回も修羅場をくぐってきた。その鋭い眼は一点を見つめて瞬きもしない。組織『赤紅』のリーダー、木場陽練(モクバヨウレン)はただ存在しているだけでも全ての物質を威圧する。そんな存在だった。
「第六組の偵察班二名。少し前に、連絡が途絶えました」
「……六組。尾田の組か……。
偵察班……は徳永と山岸だな。
――じゃ、俺が探しに行く」
「え? ちょっとモクバさん!」
え、何言ってるのこの人と、通信士が慌てるのも無理はない。約六十名からなる少数精鋭組織。日本に七人しか居ない理解者の一人、木場陽練が束ねる組織『赤紅』は相当数の黒い影に対抗できる世界でも数少ない組織だ。そのリーダーが、直接、あの暗雲と黒い雨に飛び込もうというのである。
「何言ってるんですか!?」
「止める気か。無駄だな。
誰にも俺は止められん。
なぁに死んだり消えたりはしねぇよ。リーダー信じろ」
言葉が切れた瞬間に、モクバはその場から消えていた。
通信士は知っていた。過失は、事実を知らせた自分にある。
通信士は知っていた。モクバヨウレンはつまり、そういう人物なのだと。
通信士は知っていた。単純な戦闘力なら世界一と言っても過言じゃない男は、消えることはないだろう。
通信士は知っていた。最も恐るべきことは、そんな木場陽練が、木場陽練ではなくなることなのだが……。
「あの人なら、大丈夫……かもしれない」
理解者の宿命を、乗り越えられるかもしれない。根拠も何もない。勘に頼った考えだが。
そう考えながら通信士は、もう一人の理解者に連絡を取っていた。最早小規模の抗戦は限界。宿命に喰われそうな理解者にも頼らなければ、世界は終わるだろう。
通信士は、今の時代では化石に近い通信器具を取り出した。
「ナガラ ト レンラク トリタシ」
-----------------------------------------
・白瀬英輔
ビルの外で大きな衝撃。
でも僕には、時間がない。
「サエさん」
「ん?」
「ありがとう」
僕が手を差し出すと、サエさんも不思議そうな顔をしながら手を差し出してくれた。本当に、今まで――。
「ありがとうございました」
「何度も何度も言うなよ、照れるだろう……」
そっぽを向いて、口を尖らせるサエさん。
ありがとうございました――そしてごめんなさい。
触れた手と手から、サエさんから、ごおっ、と。暴風が、ただ、自分を消そうとする暴風が。――色が、赤が、力が、流れ込んできた。 白黒茶赤白黒茶赤白黒茶赤白黒茶赤白黒茶赤。ぐちゃぐちゃぐちゃぐちゃ。
凄まじい混沌。
砂嵐
――だが あがが
砂嵐
……可能なはずだ――。 可能でなければならない。
精神を集中する。肉体の苦痛に耐える。だが、混沌は肉体にも精神にも襲い掛からない。ただ、本質を攻撃する。
どうにもできない責め苦。人間では一生理解できない場所の変化。それは苦しみ、悲しみ、あらゆる苦痛となって僕を襲う。慣れなど決してありえない苦痛。世界中の悪と憎しみと痛みが凝縮されたような。死ね、死ぬ。死んだ方がマシだと思えるほどの責め苦。生きている辛さの全てだ。
砂嵐
――色の操作、神の領域。
操作するなど……
操作するなど……
可能にするしかない
――アラートがなる。人として危険とかじゃなくて。命が危険とかじゃなくて。もっともっと大事なものが危険。
僕という僕がなくなってしまう。
けれど、全面無視。
砂嵐死ぬ砂嵐 砂嵐ザザーッ砂嵐 砂嵐消える砂嵐 砂嵐ザーーッ砂嵐 砂嵐ザザーッ砂嵐完全消滅砂嵐
「……? シラセ、何を……」
サエさんの言葉は、僕から放たれた手刀によって切れた。僕の爆発的にあがった身体能力は、サエさんを一撃にもとに気絶させることなど容易だった。
砂嵐
僕のオーラは真っ赤に染まっていた。
――そこに迷いは、ない。
――けれど、サエさんの声はもう聞けない、と思うと、少し残念。
砂嵐
さぁ、最後の戦いを始めよう。
さぁ、長かった苦悩にケリをつけよう。
自分自身で始めたことは、自分自身で終わらせよう。
――時間がない。
砂嵐
僕の存在は、指先から、薄くなっていくから。
最後の戦い ――The last war
希望、絶望、無駄な夢。
コンクリート、アスファルト。
人間、犬、猫、ネズミ、牛。
雑草、クローバー、桜の木。
空、大地、雲、太陽。
叶えられること、叶えられないこと。
人の死、受け継がれること。
・組織『赤紅』リーダー 余談
「モクバさん!」
「おーう、どうした」
振り向かずに通信士の声に答えた人物。短く切られた赤い髪。長身。ハスキーボイス。三十台前半だが、何十回も修羅場をくぐってきた。その鋭い眼は一点を見つめて瞬きもしない。組織『赤紅』のリーダー、木場陽練(モクバヨウレン)はただ存在しているだけでも全ての物質を威圧する。そんな存在だった。
「第六組の偵察班二名。少し前に、連絡が途絶えました」
「……六組。尾田の組か……。
偵察班……は徳永と山岸だな。
――じゃ、俺が探しに行く」
「え? ちょっとモクバさん!」
え、何言ってるのこの人と、通信士が慌てるのも無理はない。約六十名からなる少数精鋭組織。日本に七人しか居ない理解者の一人、木場陽練が束ねる組織『赤紅』は相当数の黒い影に対抗できる世界でも数少ない組織だ。そのリーダーが、直接、あの暗雲と黒い雨に飛び込もうというのである。
「何言ってるんですか!?」
「止める気か。無駄だな。
誰にも俺は止められん。
なぁに死んだり消えたりはしねぇよ。リーダー信じろ」
言葉が切れた瞬間に、モクバはその場から消えていた。
通信士は知っていた。過失は、事実を知らせた自分にある。
通信士は知っていた。モクバヨウレンはつまり、そういう人物なのだと。
通信士は知っていた。単純な戦闘力なら世界一と言っても過言じゃない男は、消えることはないだろう。
通信士は知っていた。最も恐るべきことは、そんな木場陽練が、木場陽練ではなくなることなのだが……。
「あの人なら、大丈夫……かもしれない」
理解者の宿命を、乗り越えられるかもしれない。根拠も何もない。勘に頼った考えだが。
そう考えながら通信士は、もう一人の理解者に連絡を取っていた。最早小規模の抗戦は限界。宿命に喰われそうな理解者にも頼らなければ、世界は終わるだろう。
通信士は、今の時代では化石に近い通信器具を取り出した。
「ナガラ ト レンラク トリタシ」
-----------------------------------------
・白瀬英輔
ビルの外で大きな衝撃。
でも僕には、時間がない。
「サエさん」
「ん?」
「ありがとう」
僕が手を差し出すと、サエさんも不思議そうな顔をしながら手を差し出してくれた。本当に、今まで――。
「ありがとうございました」
「何度も何度も言うなよ、照れるだろう……」
そっぽを向いて、口を尖らせるサエさん。
ありがとうございました――そしてごめんなさい。
触れた手と手から、サエさんから、ごおっ、と。暴風が、ただ、自分を消そうとする暴風が。――色が、赤が、力が、流れ込んできた。 白黒茶赤白黒茶赤白黒茶赤白黒茶赤白黒茶赤。ぐちゃぐちゃぐちゃぐちゃ。
凄まじい混沌。
砂嵐
――だが あがが
砂嵐
……可能なはずだ――。 可能でなければならない。
精神を集中する。肉体の苦痛に耐える。だが、混沌は肉体にも精神にも襲い掛からない。ただ、本質を攻撃する。
どうにもできない責め苦。人間では一生理解できない場所の変化。それは苦しみ、悲しみ、あらゆる苦痛となって僕を襲う。慣れなど決してありえない苦痛。世界中の悪と憎しみと痛みが凝縮されたような。死ね、死ぬ。死んだ方がマシだと思えるほどの責め苦。生きている辛さの全てだ。
砂嵐
――色の操作、神の領域。
操作するなど……
操作するなど……
可能にするしかない
――アラートがなる。人として危険とかじゃなくて。命が危険とかじゃなくて。もっともっと大事なものが危険。
僕という僕がなくなってしまう。
けれど、全面無視。
砂嵐死ぬ砂嵐 砂嵐ザザーッ砂嵐 砂嵐消える砂嵐 砂嵐ザーーッ砂嵐 砂嵐ザザーッ砂嵐完全消滅砂嵐
「……? シラセ、何を……」
サエさんの言葉は、僕から放たれた手刀によって切れた。僕の爆発的にあがった身体能力は、サエさんを一撃にもとに気絶させることなど容易だった。
砂嵐
僕のオーラは真っ赤に染まっていた。
――そこに迷いは、ない。
――けれど、サエさんの声はもう聞けない、と思うと、少し残念。
砂嵐
さぁ、最後の戦いを始めよう。
さぁ、長かった苦悩にケリをつけよう。
自分自身で始めたことは、自分自身で終わらせよう。
――時間がない。
砂嵐
僕の存在は、指先から、薄くなっていくから。
最後の戦い ――The last war
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