・二人組み (徳永と山岸)

 周りは全て黒い影。
 四面楚歌である。
 勿論銃の残弾はゼロ。
 発現者の赤いナイフ一本では打開しえない。
 典型的な大危機的状況。

「おい、ヤマギシ」

 先輩トクナガは、アルミ製のドッグタグを後輩ヤマギシに投げた。ドッグタグは首から提げる認識票のようなものだ。持ち主が戦死して、原型を留めないほど損壊し、外見から個人識別が不可能な状態になっても、ドッグタグが無事ならば個人識別ができる。

「え――先輩?」

 チェーンが澄んだ音を立てながら放物線を描く。組織ではドッグタグの着用は義務付けられていなかった。そのドッグタグは良くも悪くも堅物だったトクナガが、唯一身につけていたアクセサリーだった。

「生き延びろよ」

 ――トクナガは、最期にそう言って、黒い影に呑まれた。

 ヤマギシの手の中には、トクナガの名前が刻まれているアルミ製のドッグタグだけが残った。

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・西城遊里

 トクナガは背中からずぶずぶと、身を預けるように、黒い壁に呑みこまれていった。少し残念そうに。だけど潔く。黒い無に消えていった。
 ヤマギシは眼を見開いてその光景を見ていた。私は近寄る影を払うので精一杯だ。残念だが、トクナガの死に何か思う間はなかった。私にも、ヤマギシにも。

 全ての事柄は、一瞬で起こる

 ―― ――まだだ。 まだ、撃鉄は降ろせない。

 トクナガが呑まれた場所に影が集まった為、360度黒ドーム状態の一箇所の密度が小さくなった。それは、本当に少しだった。とても、人一人の命と釣り合うとは思えない。

 だが、しかし、

  苦痛も一瞬、喜びも一瞬

 最早、限界の赤いナイフでそこから隙間を開き、一気に突破する。その際に赤いナイフは完全に消滅した。これで、私達の武器は全てなくなった。

 十年も一瞬、人生も一瞬

 ――ふと、私はバランスを崩した。カイを庇って顔から地面にダイブする。倒れたときの衝撃は、片足に宿った灼熱に消された。――見るまでもなかった。

 私は言う。

「カイを、お願いします」

 ―― 一瞬で、全ては、散る ――

 ――。

 走り去ったヤマギシとカイを見つめながら、私は繋がったと安心する。

 まるで、花火のよう

 なくなった片足。影に囲まれた私。

 確実な、死と無。

 それも、一瞬

 静かに目前まで迫る影。

 人体内水分、空気中水分……高熱物質との接触による水蒸気爆発。圧力。熱膨張。最大爆発規模、範囲計算……完了。二名への影響は微。

 ――息を止めて、目を瞑って。

 撃鉄を降ろすのも、一瞬

 
 キバさん、ごめんね。

 私……ここまでだった。

 ……カチン

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