96、クローバー 【くろーばー】
2006年7月10日 100題 コメント (1)・高橋冴
私は微笑みながら白瀬に近づく。
白瀬のオーラは黒、白、茶、それぞれが混ざった色。禍々しく蠢いていた。混沌としていた。
なぁ、白瀬よ。(私は微笑む)
――ごめんなさい、ごめんなさい。
うだうだと、(私は白瀬に近づく)
――ごめんなさい、ごめんなさい。
ぐじぐじと、(私は蹴りの動作に入る)
――ごめんなさい、ごめんなさい。
「言ってんじゃねーよ!」
ドゴォ
私は親の敵よろしく白瀬のボディを渾身で蹴る。変な回転をしながら壁に叩きつけられたのは白瀬。理解者じゃなければ、確実に死んでいた。
白瀬は混乱している。謝る声は途切れた。ひとまず、良し。
「え、高橋……冴さん?」
「そーだよ、ばかもん」
バコォ
すぐさま距離を詰めて、白瀬の頭に拳骨を入れる。結構痛かったらしく、白瀬は頭を抑えてその場に蹲る。
「何、自分、見失ってんだよ」
俯いた白瀬の顔を両手で挟むように引っつかんで前を向かせる。私の方を向かせる。私の目を見させる。恐らく、私の額には血管が浮き出ているのだろう。白瀬は目を伏せて、俯こうとする。私はそれを力ずくで阻止する。ぎりぎりと。
「お前は、誰だ。お前の色は、何色だ」
「あ……う……あ……」
ほーら、『怒りマーク』が増えるぞー。
「お前は、誰だ。お前の血は、何色だ」
「あ……うぅ……」
ほーら、微笑みが口端から崩れていくぞー。
「何だ、その受け答えは。お前は、三歳児か、コラ」
ドスを効かせた声にびくりと白瀬が反応する。「恐怖」
「冴……さん?」
「白瀬、お前のことが好きだ」
白瀬はきょとんとする。「驚き」
「というのは嘘だ」
勿論嘘だ。
「……」
はて、残念がると思ったのだが……。「怪訝」
「あの……サエさん?」
「実はな、シュウが死んだ」
再度、驚き。
「――え? そんな―― 本当ですか?」
「シュウを勝手に殺すな、コラァ!」
バコォ
二発目の拳骨。「混乱」
白瀬は混乱する。それは、状況を理解できない事への混乱。私の不可解な行動と言動を解明しようと、白瀬は必死に思考している。それでいい。それが、普通の人間。
「もう一度、聞くぞ。お前、誰だ」
「……白瀬、英輔です」
「お前、何色だ」
「白、でした」
「お前の血は何色だぁ!」
「まだ赤いと思います!」
何故、そんなことを忘れていたのだろう、という表情の白瀬。
そうだ、それだけのことだろう。なんで忘れかけてるんだ。お前はごちゃごちゃと考えすぎなんだ。
「四葉の白詰草を見つけるとどうなる気がする?」
「願いが叶うような気がします」
「私の弟の名前は?」
「高橋秋です」
「明日の天気は?」
「わかりませんよ」
「お前の一番の親友の名前は?」
「……黒部洋です」
――さて。
お帰りなさい、と。
「シュウはな、今、眠っている」
「……」
「コンクリートの冷たく固い床で、深く眠っている」
ちなみにシュウは私と白瀬のすぐ後ろで眠っている。何故かこのビルには影が集まらないから、私が運んできた。勿論呼吸はしている。
「呑気な顔で眠ってるから、さっき一発殴っといた」
「それはひどいですよ、サエさん」
「心配させる方が悪い。お前も、シュウもな」
出会ったときから、思っていた。
「背負いこみすぎ。重量過多。肩の力を抜け。たまには荷物を降ろしてみて、そしてゆっくり考えてみるんだ。
周りをよく見てみろ。道はまだあるかもしれない。
周りをよく見てみろ。色々な人物がいるぞ。
例えばほら、すぐ目の前に、頼れる人物が……いるだろう?」
なぁ、白瀬。
壊れた世界でも、結構広いんだよ。
壊れた世界でも、私達は生きてるんだよ。
シラセ。お前も、私も、シュウも、キバさんも、カイちゃんも、ユウリさんも、皆、皆。
――人間なんだよ。
――Without forgetting.
-----------------------------------------
・白瀬英輔
罪はなくならない。
罪は軽くならない。
憎しみの声はまだ続いているし。
僕の内側は混沌としていく。
でも、ひとまず、それらを背中から降ろして、僕は考えてみた。
――――。
――そうか――うん。
正解かどうかわからない。正解があるのかさえ、わからない。
でも、僕は――とりあえず、ここから進めそうです。
「――ありがとうございました。
サエさんの言葉は、骨身に染みました。流石、年の功です」
バコォ
僕は満面の笑みで拳骨を受けた。
――At that time, he determined it.
――At that time, he was him.
私は微笑みながら白瀬に近づく。
白瀬のオーラは黒、白、茶、それぞれが混ざった色。禍々しく蠢いていた。混沌としていた。
なぁ、白瀬よ。(私は微笑む)
――ごめんなさい、ごめんなさい。
うだうだと、(私は白瀬に近づく)
――ごめんなさい、ごめんなさい。
ぐじぐじと、(私は蹴りの動作に入る)
――ごめんなさい、ごめんなさい。
「言ってんじゃねーよ!」
ドゴォ
私は親の敵よろしく白瀬のボディを渾身で蹴る。変な回転をしながら壁に叩きつけられたのは白瀬。理解者じゃなければ、確実に死んでいた。
白瀬は混乱している。謝る声は途切れた。ひとまず、良し。
「え、高橋……冴さん?」
「そーだよ、ばかもん」
バコォ
すぐさま距離を詰めて、白瀬の頭に拳骨を入れる。結構痛かったらしく、白瀬は頭を抑えてその場に蹲る。
「何、自分、見失ってんだよ」
俯いた白瀬の顔を両手で挟むように引っつかんで前を向かせる。私の方を向かせる。私の目を見させる。恐らく、私の額には血管が浮き出ているのだろう。白瀬は目を伏せて、俯こうとする。私はそれを力ずくで阻止する。ぎりぎりと。
「お前は、誰だ。お前の色は、何色だ」
「あ……う……あ……」
ほーら、『怒りマーク』が増えるぞー。
「お前は、誰だ。お前の血は、何色だ」
「あ……うぅ……」
ほーら、微笑みが口端から崩れていくぞー。
「何だ、その受け答えは。お前は、三歳児か、コラ」
ドスを効かせた声にびくりと白瀬が反応する。「恐怖」
「冴……さん?」
「白瀬、お前のことが好きだ」
白瀬はきょとんとする。「驚き」
「というのは嘘だ」
勿論嘘だ。
「……」
はて、残念がると思ったのだが……。「怪訝」
「あの……サエさん?」
「実はな、シュウが死んだ」
再度、驚き。
「――え? そんな―― 本当ですか?」
「シュウを勝手に殺すな、コラァ!」
バコォ
二発目の拳骨。「混乱」
白瀬は混乱する。それは、状況を理解できない事への混乱。私の不可解な行動と言動を解明しようと、白瀬は必死に思考している。それでいい。それが、普通の人間。
「もう一度、聞くぞ。お前、誰だ」
「……白瀬、英輔です」
「お前、何色だ」
「白、でした」
「お前の血は何色だぁ!」
「まだ赤いと思います!」
何故、そんなことを忘れていたのだろう、という表情の白瀬。
そうだ、それだけのことだろう。なんで忘れかけてるんだ。お前はごちゃごちゃと考えすぎなんだ。
「四葉の白詰草を見つけるとどうなる気がする?」
「願いが叶うような気がします」
「私の弟の名前は?」
「高橋秋です」
「明日の天気は?」
「わかりませんよ」
「お前の一番の親友の名前は?」
「……黒部洋です」
――さて。
お帰りなさい、と。
「シュウはな、今、眠っている」
「……」
「コンクリートの冷たく固い床で、深く眠っている」
ちなみにシュウは私と白瀬のすぐ後ろで眠っている。何故かこのビルには影が集まらないから、私が運んできた。勿論呼吸はしている。
「呑気な顔で眠ってるから、さっき一発殴っといた」
「それはひどいですよ、サエさん」
「心配させる方が悪い。お前も、シュウもな」
出会ったときから、思っていた。
「背負いこみすぎ。重量過多。肩の力を抜け。たまには荷物を降ろしてみて、そしてゆっくり考えてみるんだ。
周りをよく見てみろ。道はまだあるかもしれない。
周りをよく見てみろ。色々な人物がいるぞ。
例えばほら、すぐ目の前に、頼れる人物が……いるだろう?」
なぁ、白瀬。
壊れた世界でも、結構広いんだよ。
壊れた世界でも、私達は生きてるんだよ。
シラセ。お前も、私も、シュウも、キバさんも、カイちゃんも、ユウリさんも、皆、皆。
――人間なんだよ。
――Without forgetting.
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・白瀬英輔
罪はなくならない。
罪は軽くならない。
憎しみの声はまだ続いているし。
僕の内側は混沌としていく。
でも、ひとまず、それらを背中から降ろして、僕は考えてみた。
――――。
――そうか――うん。
正解かどうかわからない。正解があるのかさえ、わからない。
でも、僕は――とりあえず、ここから進めそうです。
「――ありがとうございました。
サエさんの言葉は、骨身に染みました。流石、年の功です」
バコォ
僕は満面の笑みで拳骨を受けた。
――At that time, he determined it.
――At that time, he was him.
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