・西城遊里
 
 
 
 
 ――        ――   嘘

 ――        嘘

 

 

 ―― 嘘!!!!!

 死んでイル。 ――嘘
 穏やかな表情で死んでイル。 ――嘘
 ボロボロになって死んでイル。 ――嘘

 
 何も語らなかったその人は、 ――嘘
 やはり、何も語らず、いなくなった。 ――嘘

 限りある命を使い切って。 ――嘘

「なん――で?」

 貴方は、強かったのに。
 褐色の能力は、黒い影になんか、負けないはずなのに。
 カイを、 守ったから?

  『違うよ』

 ……誰?

  『やや、これは寄り道だがね。やはり、人は等しく、真実を知るべきだと、思ってね』

 ……誰?

  『カミギ、と名乗っておこうか』

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 真実を聞いた後に、到来した感慨は『無』だった。
 結局、遠くから聞こえた声の主は何者だったのか、知ろうとは思わなかったし、知ることもできなかったのだろう。
 私にはひとつの成すべきことができた。

 ――それだけで充分だった。

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 今更ながら、二人組みの先輩の方は徳永《トクナガ》、後輩の方は山岸《ヤマギシ》という名前、なのらしい。
 私達四人はある場所を目指して走る。
 ますます増える影達を消しながら、避けながら。
 「理解者がいるのは本当にこっちですか!?」
 知らない声が教えてくれた、とは言えない。
 「こっちよ」
 トクナガに淡々と答える。
 キバの死体は置いてきた。その場で泣きじゃくるカイはキバから引き離し、今は私が背負っている。二人組みはカイの負んぶを代わると言ってくれているが、カイの動揺は激しかった。私がすぐ傍にいないと、私が触れていないと、壊れてしまうかもしれない。今も私の背中で泣いているカイは、年相応の女の子に見えた。

 とりあえず、生き残らなければ意味がない。
 そして、この状況を突破でき得るのはただ一人だけだった。

 生きているか、死んでいるか、別にして。
 人であるのか、化け物であるのか、別にして。

 ――黒の雨はまだ酷くなる。
 ――彼の死に私は泣けなかった。

 ――カイの可能性を信じよう。
 ――泣きじゃくるカイは、まだ、壊れていない。
 ――この狂った世界の中でまだ、壊れていない。
 ――彼は信じた。

              ――I want also to believe.

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