・古藤枝理

 遠い空には暗雲が立ち込めていた。

 村の皆の顔も、曇っている。

「エリ、家に入りなさい」

 村長が私を呼んだ。
 でも私は、暗雲から眼を逸らすことができない。

 ――少し前に、

 白い閃光を見た気がした。
 村を助けるために影と闘い、左腕を失くした少年。
 まだあどけなさを残していた、少年。
 一瞬、脳裏を、過ぎた。

「……気のせいよね」

 視線を落とし、足元にいたポチを撫でる。
 ……ポチはシラセが村を出てから、少し大きくなっていた。

「家に入るわよ、ポチ」

 原始的な、木で出来た家。それでも人は、家があると安心できる。

「……どうしたの?」

 ポチは暗雲の方向を見つめ、地面に座ったまま微動だにしない。
 私は傍にしゃがみ、ポチの瞳を覗く。
 真っ黒な瞳には、朝焼けの赤い空と、生きているように動く不吉な暗雲が映っていた。

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