終わりの音を、奏でよう。

 ・レクイエムだ!

 ヨウが両手を掲げた。
 同時に暁の空を黒い影が蔽った。
 何千、何万、何十万。
 世界中の影、呪い、悪、憎しみ、悲しみ、叫びが集まる。

 本来理性を持たない影達の上に、君臨する『黒の王』。

 ――クロベヨウは良家の生まれだった。
 欲しいと思ったものはすぐに手に入れることができた。
 両親は優しかった。苦労と達成をバランスよく体験した。
 なにも不自由はなかった。これ以上ない、幸福。
 それを実感できていた。

 自分の有り余った幸福は他人に分けるべきだと思ったころもあった。
 
 しかし、ヨウはその後長い間(いつからだったかは忘れた)、暗く狭く黒い部屋に閉じ込められることになる。
 誰も気付いてくれない。自分が誰なのか分からない。世界が何なのか分からない。
 「死」と同じようなことを味わうことになった。

 その暗い部屋に、カーテンの隙間から射すような光が床と壁に白い線を作った。
 それが、シラセだ。

 その隙間を、全開にしてくれたのは……
 カミギコウキさんだった。

 ――解き放たれた僕が見た世界。

 ああ、なんて素晴らしい、この世界よ。
 だからこそ、壊し甲斐があるというもの。
 空を埋め尽くす黒い影。
 薄赤い空は完全に消えた。
 夜が地球の上を移動していた。

 今、ヨウは世界に反旗を翻した。

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