・シラセエイスケ

 ソウは黒い霧になって消えた。
 本人にも正体の解らないストレスは解消された。
 思考がクリアになり、自分の行動や感情に今更ながら驚くのはシラセである。

 ――あからさまな憎しみの感情。
 
 それは無理もなかった。
 世界は今や黒い影が満ちている。
 世界の色は「黒」なのである。
 その世界の力を、大量に自分を通して使えば、世界の色に染まってしまうのは道理。
 世界の意志に、個人の意志が敵うはずがないのだ。
 世界の色に、個人の色は塗りつぶされるのみなのだ。

 様々な場所で起こった人間、動物、植物、全ての物体の悲劇と死。
 ――それは放つ。「黒」を。
 憎しみの色で満ちている世界。
 死、抑圧、絶望、罪悪、負け、恐怖。
 黒い影にハラワタをとられ、ゆっくり死んでいく人間の絶望。
 子供を目の前で殺された母親の悲しみ。
 子供を殺した人間を殺す母親の憎しみ。
 繰り返される破壊と抑圧。罪と罰。
 不実の罪で死ぬ青年。
 助けた少年に殺される老人。
 一歩動けば死ぬ恐怖。生きたまま焼かれるモノたち。
 苦痛と悲痛。呪いの言葉は尽きることがなく、喉が潰れても眼は訴える。眼が潰れても、訴える。死んだとしても、訴える。

 ――憎い。

 暗闇に血走った瞳が浮かび上がる。

 何故、自分だけ。
 何故、お前だけ。
 憎しみと嫉妬、戦争と平和。生きるための本能と理性。
 弱肉強食、因果応報、自業自得。
 全ては絡み合うが、今のこの世界では、やがて一つに集約される。

 ――憎い。

 暗闇の中に、乾いた血のような色で浮かび上がる。

 ――憎い。

 それはこの世全ての悪と憎しみと呪い。
 言葉ではない、魂に直接届くもの。
 暗闇に浮かび上がった顔。
 
 ――憎い。

 顔、顔、顔、顔。 

 シラセは頭を抱えてその場に座り込む。

 暗闇にずらりとならんだ顔が絶叫をあげると同時に

「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!!」

コメント

痺れ武蔵
痺れ武蔵
2006年6月20日22:06

シラセよどこへゆく

平田
平田
2006年6月21日22:01

遠き地平の彼方に

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