71、積み上げる 【つみあげる】
2006年6月14日 100題・高橋冴
――え?
私は今、飛び出した、はずだ。
しかし、私は、何故か、立っていただけだった。
――何も、なかった。
何もなかったはずなのに、違和感。
私の左腕は、誰かに掴まれていた。
私は――その――誰か――を
「――バカ――」
何故か、罵倒したくなった。
――幸せそうに微笑みながら、誰か(弟)は目を閉じていた。倒れながらも、誰か(弟)の右手は、私の左腕を、しっかりと掴んでいた。誰か(弟)は、本当に、眠るように、穏やかに、――でいる(?)。
「闘」わなければ、という炎の意志は、冷たく、鋭い不安に消されそうだった。
「おい、どうした? 死んだふりか?」
誰か(弟)を揺する。
「――いつもの、憎まれ口はどうした?」
誰か(弟)を揺する。
今度は、強く、揺する。
誰か(弟)の声は、聞こえない。
「お前は、死んでも死なないだろ」
そうだ、死なんてありえない。
強く、強く揺する。信じたくナイ。信ジラレナイ。
誰か(弟)の眼は、開かない。
「そうだろ、お前は殺しても、死なないよな」
私は誰か(弟)の顔を直に見れなくなる。
誰か(弟)の顔は、あまりにも穏やかで。
「私が、鍛えてやったじゃないか」
絞るように、言葉を出す。
誰か(弟)に向けた言葉。
それは誰にも届かず、空気に溶けていく。
「答えろ! シュウ!」
――そんなに強く揺すらないでくれ……姉と一緒にしないでくれ……俺はひ弱なんだ――
遠くで、誰かが、言った。(ように聞こえた、幻聴だ)
「どうして――」
しばらく忘れていた、胸が詰まるような感覚。
胸から眼へあがっていく「水」を止めるすべはなく。
――また、誰かが、言った――
――鬼の目にも、涙……だな。――
幻聴だ。ああ、でも、幻聴でも、幻想でも、良かった。
白い背景が頭一杯に広がった。そこにシュウの笑顔が浮かび、すぐにマッチの火のように儚く消えた。
積み上げてきたものは、一瞬で消えた。
まだ私を離さないシュウの右手は、段々冷たくなっていく。
――え?
私は今、飛び出した、はずだ。
しかし、私は、何故か、立っていただけだった。
――何も、なかった。
何もなかったはずなのに、違和感。
私の左腕は、誰かに掴まれていた。
私は――その――誰か――を
「――バカ――」
何故か、罵倒したくなった。
――幸せそうに微笑みながら、誰か
「闘」わなければ、という炎の意志は、冷たく、鋭い不安に消されそうだった。
「おい、どうした? 死んだふりか?」
誰か
「――いつもの、憎まれ口はどうした?」
誰か
今度は、強く、揺する。
誰か
「お前は、死んでも死なないだろ」
そうだ、
強く、強く揺する。信じたくナイ。信ジラレナイ。
誰か
「そうだろ、お前は殺しても、死なないよな」
私は誰か
誰か
「私が、鍛えてやったじゃないか」
絞るように、言葉を出す。
誰か
それは誰にも届かず、空気に溶けていく。
「答えろ! シュウ!」
――そんなに強く揺すらないでくれ……姉と一緒にしないでくれ……俺はひ弱なんだ――
遠くで、誰かが、言った。(ように聞こえた、幻聴だ)
「どうして――」
しばらく忘れていた、胸が詰まるような感覚。
胸から眼へあがっていく「水」を止めるすべはなく。
――また、誰かが、言った――
――鬼の目にも、涙……だな。――
幻聴だ。ああ、でも、幻聴でも、幻想でも、良かった。
白い背景が頭一杯に広がった。そこにシュウの笑顔が浮かび、すぐにマッチの火のように儚く消えた。
積み上げてきたものは、一瞬で消えた。
まだ私を離さないシュウの右手は、段々冷たくなっていく。
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