・高橋秋

 嘘だろう。シュウは呟く。

 それはまさに、次元の違う闘いだった。
 単純な殴り合いのはずなのに。

 『美しい』闘いだった。
 相手を消す。その一点のみ追求した、無駄と容赦の全くない攻撃の応酬。
 一撃一撃が空気を掻き乱し、互いのカタチを抉る。
 シラセのまだ人間だった部分からは血のようなものが出るが、それもすぐに再生される。
 どんなダメージであっても、互いに無表情。ある一点に集中し、他は何も考えていない。
 思考は、自身のダメージではなく、仲間の安否ではなく、敵の打倒。
 純粋な闘い。
 そこには黒も白もない。
 
 シュウは惚けるようにシラセとソウの闘いを見る。
 
 彼らの心臓や脳は、最早意味がない。彼らは既に人間ではなく「色」そのもの。そういう存在なのだ。
 よって相手を一撃の下に殺す、そんな必殺の一撃は存在しない。
 相手を殺すには、相手の存在を消すしかない。
 だから、これは単純な力のぶつかり合い。相手の力、エネルギーを消す闘い、なのだが。
 それでも、戦術は必要。急所、要所、弱点、力の流れを瞬時に、正確に、把握し、目にも留まらない速さ、人間ではありえない威力の攻撃を互いに、避け、受け、流し、放つ。
 
 互いに無駄はなく、鋭く、強く、巧い。

 見惚れる。
 互いの存在を賭けた誰にも邪魔できない闘い。
 これは理想の闘いだ、とシュウは思ってしまった。

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