今と思い出との区別がつかない。
コウキさんはゆっくりと歩いて近づいてくる。

――クローン――

 記憶 両親が笑顔で近づいてくる。

「……君はどうやら、記憶が混乱しているらしいな。
 まぁ、記憶の調整前に世界に触れたのだから、無理はないか」

頭痛と吐き気。
君は誰だ。 

――――クローン

 記憶 お父さん?

「君はこの家の長男、□□□○○○と全く同じ肉体を持つモノだ。
 しかしな、いくら肉体が全く同じでも、記憶は全く同じにはできない。
 生まれてから見たこと、聞いたこと、感じたこと。
 さまざまな要素から作られる繊細な記憶と人格は完璧に複製できない。
 出来上がるのは似て異なるものだ。もう少し時代が変わればわからんが。
 それでもあの夫婦は、長男と同じモノを作って欲しいと私達に頼んだ」

コウキさんは無表情の中に笑いを浮かべる。
僕は、クローン?
僕は、□□□○○○の複製品?

 記憶 事故。泣き叫ぶ人々。地獄

「作られた記憶を持つクローン。
 それが、君だ。
 まぁ君は少し特殊なケースだったな。
 後は記憶の調整だけで完成、というところで料金の支払いがストップしてしまってね」

研究所での記憶。

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(あの夫婦、事故で死んでしまったらしい)
(は? おい、残りの支払いはどうなるんだ)

無機質な声の会話が聞こえた。

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……そうか……。

「うむ。
 君が完成する前に夫婦は死んでしまった。
 長男が死んだ事故と同じような事故でな」

……僕のこの家での記憶は、作られたモノなのか……。
……確かにある作られた両親の記憶。
しかし僕は、両親の死を聞かされても他人事のように感じていた……。
それは……両親の記憶も作られた記憶だと知ったからだろうか。

――いや、僕には本当は両親などいないのだ……。

「売れない商品は処分される。
 どんな高級なソファーでも座る人がいなければそれはソファーじゃない。
 ただの塵なのだよ。
 だから君は処分されることになった。
 そこを私が助けたという訳だ」

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