43、新世界 【しんせかい】
2006年5月17日 100題冷たく澄んだメロディーは教えてくれた。
オルゴールを両親から受け取った僕。
気恥ずかしくも喜んでいた僕。
オルゴール……小さな箱をお守りのようにいつも持っていた僕。
そしてその後の
災厄
傍から見れば、事故だったんだろう。
だが、僕からすればそれは災厄以外のなんでもなかった。
霞んだ視界には瓦礫や死体、焦げた物、煙、血、塊。
そして僕は漠然と何かが失われたことに気付く。
どうしようもないことに気付く。
痛みはなかった。
その災厄、事故によって、
オルゴールは、鍵が壊れ、
僕は……死んだ。
死んだ
教えてくれた、オルゴールが
僕が?
死んだこと
霞んだ視界に映る地獄を思い出せた。
なのに僕は、そこで僕が死んだことを確信している。
なら、今の僕は何者なんだ?
待て、それより、何故僕のオルゴールがここにある?
簡単なことだ。
ここは僕の部屋だった。
頭が混乱した。
吐き気と頭痛が急に僕を襲う。
そうだ、これは僕の妄想だ?
何が?
これは、僕のオルゴール。
死んだ僕……違う、あいつ。
死んだあいつは、僕。
ならこれは、死んだあいつのオルゴール。
ゴンゴンゴン
ハンマーが脳を揺さぶっている感覚。
考える、人らしいことが、できない。
解ろうとすればするほど、わからなくなる。
「いつかはこうなると思っていた。
……うむ。
これはこれで、興味深いかもしれない」
頭を抱えて振り返る。
部屋の入り口には、僕を助けてくれたあの人。
生気のない眼、捉えがたい性格。
既に世界から外れているような違和感がある人。
それでもこの人、神木高貴(カミギコウキ)さんは僕の命の恩人だ。
「薄々感づいているとは思うが
この部屋の持ち主は死んでいる」
やはり。
やはり……?
それを何故僕は知っていた?
「写真を見て、鏡を見てみろ」
先ほども見た、写真には、笑う子供。
鏡には、その子供が成長した姿。
…… ……え?
僕は、その子供が成長した姿。
だよ。
「○○○……聞き覚えがあるか?」
いつか、白い部屋、研究所で。
--------------------
(息子よ……よく生き返ってくれた)
少し年をとった男性の声。
(ああ、○○○……良かった……)
少し年をとった女性の声。
----------------
「○○○、お前の名前だ。
……いや、違うな。
本物の名前というべきか」
……オルゴールの冷たく澄んだメロディーはいつのまにか止まっていた。
変わりに僕の脳内には、地獄を連想する壮大な曲が流れ始めた。
何かが壊れる音や姿は芸術となり得る。
「順を追って話そうか。
この家の持ち主の苗字は□□□と言う。
資産家の家主に妻、長男の3人暮らしだった。
家主は厳しく、妻は優しかったらしい。
長男は母の血が濃かったらしく、美しい容姿と綺麗な心を持っていた……。まぁ、それはどうでもいいか。
ある日、その長男が事故で他界した。
ここはその死んだ長男の部屋だ。
その壊れたオルゴールは死んだ長男に贈られた物だよ」
無表情で、淡々と、コウキさんは語る。
「まぁここまではよくある話だ」
世界が変わる一言。
古い世界は音を立てて崩れ去る。
止まらない崩壊は僕という人格をも攫おうとする。
「悲しみに暮れる両親はどうしたと思う?」
世界が変わる一言。
「作ったんだよ、その長男を」
世界が変わる一言。
「君はクローン技術によって生み出されたこの家の長男のクローン。
複製品だ」
オルゴールを両親から受け取った僕。
気恥ずかしくも喜んでいた僕。
オルゴール……小さな箱をお守りのようにいつも持っていた僕。
そしてその後の
災厄
傍から見れば、事故だったんだろう。
だが、僕からすればそれは災厄以外のなんでもなかった。
霞んだ視界には瓦礫や死体、焦げた物、煙、血、塊。
そして僕は漠然と何かが失われたことに気付く。
どうしようもないことに気付く。
痛みはなかった。
その災厄、事故によって、
オルゴールは、鍵が壊れ、
僕は……死んだ。
死んだ
教えてくれた、オルゴールが
僕が?
死んだこと
霞んだ視界に映る地獄を思い出せた。
なのに僕は、そこで僕が死んだことを確信している。
なら、今の僕は何者なんだ?
待て、それより、何故僕のオルゴールがここにある?
簡単なことだ。
ここは僕の部屋だった。
頭が混乱した。
吐き気と頭痛が急に僕を襲う。
そうだ、これは僕の妄想だ?
何が?
これは、僕のオルゴール。
死んだ僕……違う、あいつ。
死んだあいつは、僕。
ならこれは、死んだあいつのオルゴール。
ゴンゴンゴン
ハンマーが脳を揺さぶっている感覚。
考える、人らしいことが、できない。
解ろうとすればするほど、わからなくなる。
「いつかはこうなると思っていた。
……うむ。
これはこれで、興味深いかもしれない」
頭を抱えて振り返る。
部屋の入り口には、僕を助けてくれたあの人。
生気のない眼、捉えがたい性格。
既に世界から外れているような違和感がある人。
それでもこの人、神木高貴(カミギコウキ)さんは僕の命の恩人だ。
「薄々感づいているとは思うが
この部屋の持ち主は死んでいる」
やはり。
やはり……?
それを何故僕は知っていた?
「写真を見て、鏡を見てみろ」
先ほども見た、写真には、笑う子供。
鏡には、その子供が成長した姿。
…… ……え?
僕は、その子供が成長した姿。
だよ。
「○○○……聞き覚えがあるか?」
いつか、白い部屋、研究所で。
--------------------
(息子よ……よく生き返ってくれた)
少し年をとった男性の声。
(ああ、○○○……良かった……)
少し年をとった女性の声。
----------------
「○○○、お前の名前だ。
……いや、違うな。
本物の名前というべきか」
……オルゴールの冷たく澄んだメロディーはいつのまにか止まっていた。
変わりに僕の脳内には、地獄を連想する壮大な曲が流れ始めた。
何かが壊れる音や姿は芸術となり得る。
「順を追って話そうか。
この家の持ち主の苗字は□□□と言う。
資産家の家主に妻、長男の3人暮らしだった。
家主は厳しく、妻は優しかったらしい。
長男は母の血が濃かったらしく、美しい容姿と綺麗な心を持っていた……。まぁ、それはどうでもいいか。
ある日、その長男が事故で他界した。
ここはその死んだ長男の部屋だ。
その壊れたオルゴールは死んだ長男に贈られた物だよ」
無表情で、淡々と、コウキさんは語る。
「まぁここまではよくある話だ」
世界が変わる一言。
古い世界は音を立てて崩れ去る。
止まらない崩壊は僕という人格をも攫おうとする。
「悲しみに暮れる両親はどうしたと思う?」
世界が変わる一言。
「作ったんだよ、その長男を」
世界が変わる一言。
「君はクローン技術によって生み出されたこの家の長男のクローン。
複製品だ」
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