僕とあの人はその後、普通に暮らしていた。
何も知らなかった僕は、少しずつ常識を覚えていった。

そして、ある日。
その「場所」には自然に足が向いた。
「懐かしさ」に誘われるように。

あの人に「懐かしさ」の説明をすると「忘れろ」とよく言われる。
あの人は確かに僕を助けてくれたし、その後も僕の世話をしてくれている。……何かから逃げるように。
その何かはどうやら複数あるようだ。
何から逃げているのか聞いてはいけない気がした。

とにかく、感謝しまくっているあの人の言うことを無視して、ここまで来た。
「懐かしさ」の凝縮点。
かなり大きな家。
昔の金持ちが好んで住んだという「ようかん」というやつだ。
今、僕が住んでいる住居とは比べ物にならないほど大きい住居。
……無駄だらけだけど、やっぱり、懐かしい。
「無駄」は最近覚えた言葉だ。

普通、こういう家には最新のセキリティシステムが施されているのは知っていた。
門の横にある指紋・静脈認証システムに僕の手のひらを当てる。

「オカエリナサイマセ」

自動音声が告げた。
門が音も立てずに開いた。

門は何故、開いたのか。
この懐かしさは、何なのか。
僕は何故、研究所に居たのか。
僕の、両親は?

そして、僕は……何者なのか……

スクリーンが赤と白の点滅を繰り返した。
「僕の記憶」という映画を客観的に見ているはずなのに。
脳が拒否している。
体が拒否している。
その場所に、入ることを。
その記憶を、見ることを。
駄目だ、イケナイ、駄目だ。

しかし、違う何かが強制する。

見よ。

コメント

痺れ武蔵
痺れ武蔵
2006年5月13日0:17

もしかして繋がるのかあれと

平田
平田
2006年5月13日19:45

いやいや書いてから思い出しましたよあれは

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