一撃、一撃を必殺で放つ、
一撃、一撃を必死に受ける。

二人の戦いには、入り込む余地がなかった。

力が激突する度に世界が揺れる。
色の発現が増長を繰り返す。
一撃一撃が確実な死を約束している。
間違えた方が、死ぬ戦い。

力の激突の間隔が短くなっていく。
戦いは熾烈を極めていく。

しかし、最早人間とはいえないソウさんと違って、キバさんは人間であった。
直撃を避けているとはいえ衝撃は伝わり、蓄積されていく。
衝撃に耐えられなくなった細胞は少しずつ、しかし確実に破壊されていく。
それが形になって現れるのは人間であるキバさんだけである。
一瞬、キバさんの反応が遅れた。
原因は色々考えられたが、結局キバさんは「人間」だったのだ。
次の瞬間キバさんはコンクリートの壁に叩きつけられていた。
キバさんは吐血し少し咳き込んだ後、焦りを表情に滲ませた。

「悲しいかな、嬉しいかな、君が人間であることは」

歌うように言うとソウさんは僕の視界から一瞬消えた。
刹那、かなり重い衝撃音と爆発音のようなものが辺りに響くと、キバさんが叩きつけられ、もたれていた場所にはぽっかりと大きな穴が空いていた。
音響の余韻が空気を静かに震わせる。
粉々のコンクリートが素材である白い霧がゆっくり宙を漂う。
ぱらぱらと音をたてる程度の重量のコンクリートが床に散る。
キバさんに、ソウさんがさらなる追い討ちをかけた衝撃で空いた大穴からは、深い闇が覗いていた。
闇が包む外界へ飛ばされたキバさんを見据えながら、ソウさん……いや、ソウは笑った。

圧倒的な、力。

人を超えた、世界そのものともいえる力。

僕はそのただ純粋で強力な、力を、

美しいと思った。

------------------
雑音。
スクリーンは砂嵐画面。

また、来たか。
僕の記憶の映画館。
忘れていた、いや封じられていた記憶が走馬灯のように簡単に蘇る場所。
ある結果に至る為の過程。
とにかく僕はこの世界では、ただ観るしかない。

雑音と共に、機械的な音声。

-No.69 処分シマス-

相変わらずスクリーンは砂嵐。
僕はそこまでの記憶では、白か、砂嵐しか見ていなかった。
飽きるという言葉を知らない僕は、ただ生きているだけ。

僕はこれから、処分される。
その時は、そんな認識さえなかった。
僕は何故生まれてきて、何故死ぬんだろう。
そんな考えなど浮かんでこない。
僕は真っ白、カラッポだった。

-サンプル収集カイシ-

がちゃがちゃと、「音」が聞こえた。
その「音」が何を意味しているか、というか「音」が何なのかわからない僕。
雑音に混ざって聞こえてくる音声は

-No.69……サン///プ///♯*ノ?★!■△-

途切れた。

しばらくして、砂嵐も消えた。
それが消えたというのも、今の僕が認識したことだ。
その頃の僕には何が起こったのか、という疑問さえ浮かばない。

『助けてやる』

カラッポな僕に、初めての変化があったような気がした。
その時、僕は、染まった、いや、違う、心、色に波紋が広がった、そんな感覚を覚えた。

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