「一時期、私達3人と仲間になった人がいました。
 その人はとても優しい方だったので、他人を守るために自分が傷つくことを躊躇いませんでした」

ユウリさんの声に抑揚はない。
僕は何故か高橋姉弟からの視線を感じた。

「その人は、真回宗(シンカイソウ)と名乗っていました。
 その人の色はカイより少し濃い緑色……そうですね……深緑でした。
 緑系の色は治癒を得意としますが、その人の能力は少し特殊でした。
 ……能力が強力過ぎたんです。
 通常、緑の能力はどんなに強力でも内臓の治癒や腕や足などの欠損の補完は不可能です。
 しかし、ソウさんはそれが可能でした。
 ……自身が治癒対象者の身代わりになることによって、ですが」

既に陽は落ちて、ローソクの火が届かない場所は完全に闇に包まれていた。
淡々と話すユウリさんは、しがみついているカイくんの帽子にやさしく手を置いた。

「カイは一度右腕右足を失い、お腹に大きな穴を開けたことがあります。
 私達の不注意、幾つかの不幸が重なってのことです。
 いくらカイが発現者でも、死は免れませんでした。
 ……もう予想しているかもしれませんが、ソウさんは躊躇わず、能力を使いました。
 カイはこの通り完治しましたが、ソウさんがどうなったのかは言うまでもありません」

感情のない声。
何か感情を出すと、話せなくなってしまうのを恐れる声。

「私達は呆然として動かなくなったソウさんを見つめていました。
 心なしか、ソウさんはカイの方をみて微笑んだ気がしました。
 とても不謹慎ですが、私はいつかこうなるだろうな、と思っていました……」

……何故だろう、今も高橋姉弟から視線を感じるのは……。

「……しかし、それで終わりではありませんでした。
 始めは、髪の色でした」

髪の色……。

「ソウさんの黒だったはずの髪が深緑色に染まりました。
 開いた瞳孔も、茶褐色から深緑に染まりました。
 右腕と右足の傷口から深緑色の物体が噴出し、腕と足のおおまかなカタチになった後、段々肌色に染まって正確な人間の腕と足になっていきました。
 そして最後には爪や毛穴まで完全な腕と足が出来上がっていました。
 お腹に開いていたはずの大きな穴も同じように塞がってしまいました。
 それは治った、というより深緑色の別の物体がソウさんの体のカタチを模った、という印象でした」

僕はその話を聞いて、黒部のことを思い出した。
黒部はどこか傷ついたとしても、すぐに黒い物体が傷ついた部分を補完していたような気がする。

「ゆっくり体を起こして、ソウさんは言いました。
 『全て、わかった』 と」

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