ジジジジ……

薄汚れたスクリーンには見た憶えのない映像が映し出されていた。
僕とスクリーン以外は闇に包まれた映画館。
観客は一人もいない。
映写機も見当たらないが、フィルムを回す音だけが何処からか聞こえていた。

僕はぽつんと席に座っている。

何故? 何処? 疑問は浮かばない。
ただ、スクリーンを見つめる。

映画を見ることが、この世界で唯一僕のできること。

薄汚れたスクリーンには白だけが映し出されていた。
そして直感的に、これは大分前に撮られた風景だ、と思った。
白だけの映像に一瞬黒い線や点が浮かぶ。
映像が見られないほど酷い、という程ではなかったが、フィルムは大分劣化しているようだった。

(成功しました。おめでとうございます)

無機質な男性の声。
相変わらずスクリーンは白を映していた。
何故か、音声だけが脳内に響くように聞こえた。

(ありがとうございました。ありがとうございました)

少し年をとった男性と女性の声が重なって聞こえた。

(息子よ……よく生き返ってくれた)

少し年をとった男性の声。

(ああ、○○○……良かった……)

少し年をとった女性の声。

○○○はすっぽり抜けている。
どうやら年をとった男性と女性は夫婦で、僕は息子、らしい。

スクリーンには白がずっと映っている。
白しか映っていないのに、少し長い時の流れを感じた。

(あの夫婦、事故で死んでしまったらしい)
(は? おい、残りの支払いはどうなるんだ)

無機質な声の会話が聞こえた。

(俺たちの商売は表沙汰にはできないからな……)
(……おいおい)

しばらく口論が続いた後、

(……こいつはどうなる)

こいつとは僕のことだろう。それは今だから解った。
その頃の僕は、何も知らなかった、何も解らなかった。
真っ白だった。

(処分だな)

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「あれ?」

夢?
どうやら僕は、疲れも眠気もなく、意識が飛んだらしい。
それがどれだけの間だったのか、自分ではわからない。
夢から現実に移るとき、目の前が暗くなることがなかった。
おそらく僕は、眼を閉じていなかったのだろう。

目の前のカイくんは真っ青な顔をしていた。

「ユウリ……キバ……」

今にも泣き出しそうな表情のカイくんは、僕から手を離した。
大丈夫? と声を掛けることもできなかった。
カイくんが手を離した箇所に、ぽっかりと穴が開いたような痛みを覚えた。

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