まだ僕は、生きていた。

「……本当にありがとう」

子供の頭を撫でようとした。
すぐに右腕がないことに気付く。
左腕の義手は、かしゃりと冷たい金属音を出した。
こんなもので、やさしく子供の頭を撫でることなどできない。

少し悲しかった……。

「本当にありがとう」

代わりに笑顔を作り、何度も礼を言った。

「う、うん……」

照れたのか、子供は少し頬を赤く染めて若い女性の影に隠れた。
彼女も僕達を助けてくれたのだろう。

「僕達を助けてくれた人ですね? ありがとうございました」

「どういたしまして。
 でも、貴方達を助けるために、貴重なスタングレネードを迷わず投げたのは彼ですよ」

僕と同じように柱にもたれて座っている男性が見えた。

「本当にありがとうございました」

「……」

彼は表情を変えなかったが、頷いてはくれた。

大柄な男性は僕達の無事をそんなに喜んでいる様子はなかった。
もしかして、僕たちを助けたわけではなかった?
そんな突拍子もない考えが浮かんだ。

「ん……?」
「ぐ……?」

シュウさんとサエさんが同時に眼を覚ました。
流石姉弟である。(?)

あまり時間がないので、情報交換をしたい、とユウリさんから提案があった。

「山川海(ヤマカワカイ)」緑色の子供。
「西城遊里(サイジョウユウリ)」橙色の女性。
「灰牙(ハイキバ)」褐色の男性。
「高橋冴(タカハシサエ)」赤色の女性。
「高橋秋(タカハシシュウ)」青色の男性。
「白瀬英輔(シラセエイスケ)」白色の少年。僕。

自己紹介を簡単にまとめてみた。

カイくん、ユウリさん、キバさん、の3人は、僕ら3人と同じように、たまたま出会い、そのまま一緒に行動を共にするようになったのだという。

「この世界を一人で生き残るのは、困難でした」
 
キバさんは相変わらず無口で、カイくんは再び僕の痛みを和らげる為に緑の能力を使ってくれている。
自然、ユウリさんがこれまでの経緯を話すことになった。

「……世界が変わって2,3日程経ったのでしょうか。
 まだ世界に混乱が残る中、まず私とキバが出会い、行動を共にしていました。
 私とキバは世界が変わった直後に、色が発現していました。
 私とキバの色……つまり能力は戦闘型だったので、二人で行動すればまず安全でした。
 特にキバの力は凄まじく、1匹や2匹の影では相手にもなりません。
 二人で行動をしているうちに、兵器類の発射音や、爆発音が消えて、世界は段々静かになっていきました。
 発現者のグループ、組織ができたという噂もありましたが、私とキバはずっと二人で行動していました。
 そして世界が変わって1週間後、私達はカイに出会ったんです」

カイくんはずっと僕の左胸に手をあてている。

疲れない? 大丈夫?
と聞くと、「大丈夫」と答えてくれた。

「カイが世界が変わって1週間も生き残っていたのは、まさに奇跡でした。
 それからずっと、今まで、私達は3人で行動をしていました」

「違う」

ユウリさんの話に、カイくんが小さく抗議した。

「……そうね……ごめんね、カイ。
 実は一時期、仲間がもう一人いたのですが……その話はまた後に……」

何故後に回すのか。
ユウリさんの悲しい表情に、僕は何も言うことができなかった。
カイくんの手のひらからは、今も冷たく暖かい力が僕に注ぎこまれていた。
骨身に沁みるとはこのことだろうか。

ありがとう、すっかり良くなったよ。
心から、言ったつもりだったが……。

「嘘」

一言で返されてしまった。

コメント

お気に入り日記の更新

最新のコメント

この日記について

日記内を検索