今の僕は痛みのない所を探すほうが難しい状態だった。
体の芯、脊髄が、ナイフで少しずつ切り削られているのでは?
外傷はまだ良かったが、体の内側からじわじわとくる痛みはどうしようもない……。

「ぐ……」

ズキン、ズキン。
痛い、痛い。
口を閉じるのを忘れて、少し血が混ざった涎を垂らしてしまった。
血液はマグマになって、僕の体温を限界まで上げている。
今の僕の背中に卵を落とせば目玉焼きが作れるだろう。
やばい量の汗が噴きだし、髪と服はずぶ濡れになっていた。
この熱と水分量なら蜃気楼を作り出すことが出来るんじゃないか?
正気を失ってもおかしくない激痛の中で、僕は幾分か余裕だった。

……何故なら、痛みは確かに痛くて苦しいが、生きている証でもある。
そして激痛であればあるほど、物凄い苦しみであるほど、何故か僕は罪を償っているような気がするのだ。

償っている? そんなわけないだろう。
ははは。
渇いた笑いが出る。

そんなわけで、僕は痛みが嫌いではなかった。
けど、僕はマゾじゃない。
そりゃ、痛くないほうがいい。

ぺた、と、冷たくやわらかいものが頬に当たった。
その部分から冷気が広がっていく。
体が冷却されていく……。
……久しぶりに味わう感覚。
気持ちがいい。
血管を流れるマグマの動きは鈍くなり、速度規制を超えて暴走していた心臓が大人しくなる。
内側から襲ってくるどうしようもない痛みたちが薄くなっていく。

長い間忘れていた、痛みのない世界。

すりガラスのコンタクトが外れた視界には、僕の頬に手を当てている緑の帽子を被った小さな子供が居た。

「……ありがとう」

深い呼吸と同時に、そんな言葉が出た。

「……このくらいしか、できないから」

子供は無表情の中に安心を少し入れて、言った。
充分すぎる。
あまりの気持ちよさに、自分がこんな良い思いをしていいのか、と罪の意識を持ってしまった。

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