26、蜃気楼 【しんきろう】
2006年4月30日 100題今の僕は痛みのない所を探すほうが難しい状態だった。
体の芯、脊髄が、ナイフで少しずつ切り削られているのでは?
外傷はまだ良かったが、体の内側からじわじわとくる痛みはどうしようもない……。
「ぐ……」
ズキン、ズキン。
痛い、痛い。
口を閉じるのを忘れて、少し血が混ざった涎を垂らしてしまった。
血液はマグマになって、僕の体温を限界まで上げている。
今の僕の背中に卵を落とせば目玉焼きが作れるだろう。
やばい量の汗が噴きだし、髪と服はずぶ濡れになっていた。
この熱と水分量なら蜃気楼を作り出すことが出来るんじゃないか?
正気を失ってもおかしくない激痛の中で、僕は幾分か余裕だった。
……何故なら、痛みは確かに痛くて苦しいが、生きている証でもある。
そして激痛であればあるほど、物凄い苦しみであるほど、何故か僕は罪を償っているような気がするのだ。
償っている? そんなわけないだろう。
ははは。
渇いた笑いが出る。
そんなわけで、僕は痛みが嫌いではなかった。
けど、僕はマゾじゃない。
そりゃ、痛くないほうがいい。
ぺた、と、冷たくやわらかいものが頬に当たった。
その部分から冷気が広がっていく。
体が冷却されていく……。
……久しぶりに味わう感覚。
気持ちがいい。
血管を流れるマグマの動きは鈍くなり、速度規制を超えて暴走していた心臓が大人しくなる。
内側から襲ってくるどうしようもない痛みたちが薄くなっていく。
長い間忘れていた、痛みのない世界。
すりガラスのコンタクトが外れた視界には、僕の頬に手を当てている緑の帽子を被った小さな子供が居た。
「……ありがとう」
深い呼吸と同時に、そんな言葉が出た。
「……このくらいしか、できないから」
子供は無表情の中に安心を少し入れて、言った。
充分すぎる。
あまりの気持ちよさに、自分がこんな良い思いをしていいのか、と罪の意識を持ってしまった。
体の芯、脊髄が、ナイフで少しずつ切り削られているのでは?
外傷はまだ良かったが、体の内側からじわじわとくる痛みはどうしようもない……。
「ぐ……」
ズキン、ズキン。
痛い、痛い。
口を閉じるのを忘れて、少し血が混ざった涎を垂らしてしまった。
血液はマグマになって、僕の体温を限界まで上げている。
今の僕の背中に卵を落とせば目玉焼きが作れるだろう。
やばい量の汗が噴きだし、髪と服はずぶ濡れになっていた。
この熱と水分量なら蜃気楼を作り出すことが出来るんじゃないか?
正気を失ってもおかしくない激痛の中で、僕は幾分か余裕だった。
……何故なら、痛みは確かに痛くて苦しいが、生きている証でもある。
そして激痛であればあるほど、物凄い苦しみであるほど、何故か僕は罪を償っているような気がするのだ。
償っている? そんなわけないだろう。
ははは。
渇いた笑いが出る。
そんなわけで、僕は痛みが嫌いではなかった。
けど、僕はマゾじゃない。
そりゃ、痛くないほうがいい。
ぺた、と、冷たくやわらかいものが頬に当たった。
その部分から冷気が広がっていく。
体が冷却されていく……。
……久しぶりに味わう感覚。
気持ちがいい。
血管を流れるマグマの動きは鈍くなり、速度規制を超えて暴走していた心臓が大人しくなる。
内側から襲ってくるどうしようもない痛みたちが薄くなっていく。
長い間忘れていた、痛みのない世界。
すりガラスのコンタクトが外れた視界には、僕の頬に手を当てている緑の帽子を被った小さな子供が居た。
「……ありがとう」
深い呼吸と同時に、そんな言葉が出た。
「……このくらいしか、できないから」
子供は無表情の中に安心を少し入れて、言った。
充分すぎる。
あまりの気持ちよさに、自分がこんな良い思いをしていいのか、と罪の意識を持ってしまった。
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