24、ごまかし

2006年4月28日 100題
「最後のスタングレネード、使っちゃったね」

橙色の髪を短く揃えた女性が言った。
その表情は少しも残念そうではなかったが。

「……命には代えられない」

茶髪のスポーツ刈りがよく似合う大柄な男性が言った。
腕を組んで床に座っている男性の表情は岩のように固かった。

スタングレネード(強烈な閃光と大音響で敵の方向感覚、思考能力を奪う目的で作られた手投げ弾)は黒い影への有効性が知られてから、初期の大戦でかなりの数が使い込まれてしまった。
ということで今はかなりの貴重品なのだが、白瀬達が黒い影達に囲まれたとき、大柄な男性は惜しげもなくスタングレネードを使用した。
結果、黒い影はもちろん、あの初老の男性の足止めに成功。
白瀬と高橋姉弟を救出することができた。

「この人、どうして生きているんだろ」

白瀬の顔を覗き込みながら、帽子を被った子供が言った。
正面に屈み、白瀬が気絶するまで何度も呼びかけていたのはこの子供である。

「この人の体、もう僕の能力じゃほとんど治せない。
 と、いうか生きている……動いているのが不思議。
 もしかして、この人も……『理解者』に近づいているのかな……」

「海(カイ)!」

腹の底まで響くような、重い声が8階建てビルをわずかに揺らした。
大柄な男性はそんな大声を発しても、表情を動かさない。
カイと呼ばれた子供は、何かに気付いたのか、しゅんとしながら

「……ゴメン」

と言って大柄な男性と誰かに謝った。
重い空気が漂う。

「ごまかし……ね」

ぽつり、と若い女性が言った。
男性は肩を落とすと、

「……ごまかしか……そうだな……。俺も、悪かった……」

何かを思い出すように眼を閉じて、子供と誰かに謝った。
男性の固い表情が少し崩れた。
代わりに少し、悲しみが表れた。

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