カチン

黒色だらけの禍々しい空間に、冷たい金属音が響いた。

次の瞬間、空間は真っ白に染まった。
同時に物凄い爆音も響き、僕の視覚と聴覚は完全に奪われた。

誰かが僕を抱えて、移動する気配がした。

シュウさん……サエさん……

二人の安否だけが気掛かりだった。

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5分か、10分か、30分か、
随分長い間移動したような気もすれば、ほんの少しの間しか移動していないような気もする。
少し感覚を奪われただけで、時の流れが全くわからなくなった。
吐き気と頭痛を覚えたが、堪えた。

移動する気配が止まった。
僕はゆっくりと座り、かたく冷たい壁にもたれた。

視界が戻ると、灰色のコンクリートの壁と柱が見えた。
所々鉄筋がむき出しになっている。
僕には鉄筋が人間の骨に見えた。
コンクリートの肉はボロボロで、骨である鉄筋までもが傷つきそうになっている。
僕の体と重なる。
大きな窓にガラスはなく、陽が完全に沈もうとしている様子が直に見えた。

……ここは廃ビルの一室のようだ。

「まだ耳……大丈……悪か……た」

知らない誰かに話しかけられたようだ。
だが、まだ耳はよく聞こえない。
何か返事をしようと思ったが、吐き気が続いていたので諦めた。

数人の人影が見えた。
夕暮れの陽によって顔は見えない。
正面で僕に話しかけてくれた人の顔も、よく見えない。
視界の端に、治療を受けた様子の高橋姉弟が見えた。

良かった……。

安心。
緊張の糸が切れたことで、僕は気絶した。
この頃、突然気を失うことが多くなった……な。

暗闇の中で、悲鳴を聞いた気がした。
体の奥底から湧き上がってくる声、やめろ、痛い、痛い、無理だ。
わかっているよ……。
僕の体が悲鳴をあげていることは……限界が近いことは。

Good night

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