この頃、カラスをよく見かけるような気がした。
かなりの数のカラスが、静かに僕のことを見つめている。
僕がそれに気付くと、バサバサと羽音をたてて、一斉に飛んでいく。

赤と灰色の世界にカラスの姿はよく溶け込んだ。

黒部との戦いから一日後。
なんのあてもなかった僕にシュウさんは一言。

「医者を探す」

今の日本に病院という超テクノロジー建築物はない気がしたので、せめて医者を探す、ということらしい。

「お前の体、自分では気付いていないかもしれないけど、ボロボロだよ」

シュウさんは労わるように言った。

……さて

それから今まで、1週間の間に、形を保っている人間に何度か出会った。
比較的、ここの地域は無事な人が多い。
環境が良いのだろう。
はっきり言っては悪いがここは田舎だ。
都会ほどの便利さがない代わりに、それを補う為の経験を積むことができる。
生きるための経験はその人の色をより一層鮮やかにする。
都会の人々は、便利、快適……幸せを求めすぎたばかりに、不幸になる。
偏食、運動不足、ストレス、病気、etc...。
何十年も前から知られていることだが、人々はそう簡単には変われなかった。

結果、ほとんどの人間の色が黒く染まってしまった。
そして世界が変わった日。
自らの色、『黒』の特性、「破壊・吸収」によって理性と肉体を失って……黒い影になってしまった。
これは噂で余談だが、黒い影の発生率が最も高かったのは病院らしい。

カラスがまたこっちを見ていた。
カラスの姿は真っ黒だった。
しかし彼らは自分の姿を保っていた。

(君達は、姿が黒でも、黒じゃない。
 それぞれの色を持っているのか……)

カラスはカァーと一鳴きすると、赤い空に舞い上がった。
黒いシルエットがくっきりと、赤い空に映る。

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