バケツをひっくり返したような雨が降っている。
……こころなしか雨の勢いがまだ増しているような。

「まさにこの雨は天の助けだな。
くくく……」

シュウさんはニヤニヤ笑いを隠そうともせず、嬉しそうに言った。
僕はその言葉に同意しかねたが、眼も開けられない程の雨が降り、人一人背負い、黒部に追われながらも、なおこの余裕。
どうにかできる。
シュウさんには何か確信めいたものがある。
確実に、黒部から逃げ切れる方法がある。
漠然とそう思った。

「ああ、この雨は俺たちが逃げ切るには絶好だ。
 が……運を天に任せる部分がかなり多い!」

たはっとお茶目に笑うシュウさん。

僕は天を仰いだ。
なんてこった……。
結局運任せなのか……。

「この世に完璧など存在しないんだよ。
 天は自らを助くるものを助く。
 きっと大丈夫。逃げ切れるさ」

失敗すれば天に召されることになるだろうね。

「成功すれば天にも昇る心地……だろうよ」

なるほど。
しかし……
衝撃音や何かを引きちぎる音、なんとも表現しにくい、一言で言えば破壊音が後方からやってきた。

「おお、おお……自然破壊しながら追ってきたぜ。
 きっとヤツには天罰が落ちる」

同時に、ゴゴゴ、と神の怒りのような地鳴りが聞こえた。

「そこは天の怒りにしようよ」

どっちでもいい。
地鳴りにわずかな地震が加わり、右腕がないのでバランスがとれず、倒れてしまいそうだった。

「まだ大丈夫……まだ大丈夫」

そう言いながら、シュウさんはいきなり方向を変えて、黒部のいる方向を向いた。
え、ちょっと待って……

「もちろん自殺しに行くわけじゃない。
 黒部より下側の斜面を走り抜けるぞ。
 幸いあいつの移動速度は化け物じみてない。
 死ぬ気で走れ!」

確かに黒部が人のカタチを保っているならば、それも可能だろう。
……運を天に任せる。
とにかく今は、シュウさんの言葉を信じるしかない。
(特に逃げ切れる の部分)

-------------------

色がついている。
それだけのことで、いちいち森を破壊しながら進まないといけないのは面倒だった。
黒部はイライラしながらも破壊をやめなかった。
森の木々をひたすら折り、倒し、根こそぎ引き抜き、破壊した。
破壊、破壊、破壊。
本能、いや、自分の色に従うまま、破壊破壊破壊。
木々を壊すたびに泥がはねる。
どしゃ降りの雨を冷たいと思う感覚はない。

破壊。

急にうっすらと見えていた青が方向を変えた。
こっちに向かってくる。
何故?

まあ、いい。 とりあえず破壊だ。

---------------------

腹をすかせたライオンの前を横切る心境だ。
木々の間から一瞬、禍々しく黒い存在が見えた気がした。
見えた。見えちゃったよ。
高橋秋は内心穏やかではなかった。
色が青……理性、冷静を表すと言っても高橋秋は高橋秋だ。
ということで、怖いものは、怖い。

ひたすら、懸命に走る。
ライオンから逃げる草食動物の心境だ。
シラセは後ろをぴったりとついてきている。
青の眼で見ると、華奢に見える肉体が、どれほど鍛え上げられたものなのか、傷ついたものなのか、解ってしまった。
シラセは限界が近い。いろいろな意味で。
しかし、今はそれでも、シラセがついてくることを信じるしかなかった。
雨はますます増した。
土の性質や木々の種類、山の地形。
そして黒い奴が自ら破壊した木々。

天を仰いで唾する。

まさに自業自得だ。化け物。

3

雨によって地面には水が染み込み、土を支える植物の根が大量に失われた。

2

それによって地盤がゆるみ、
まあ、簡単に言えば

1

土砂崩れが起きた。

後編に続く(待

コメント

ポチ&黒
ポチ&黒
2006年4月17日23:39

>僕はその言葉に同意しかねたかが、

ミスを発見したぜ!     ミスなのか不安になってきました。

平田
平田
2006年4月18日19:29

ミスです!
ありがとうございます。

お気に入り日記の更新

最新のコメント

この日記について

日記内を検索