冷たい水滴が顔に当たった。
雨だ。
思いのほか水滴は重く、痛かった。
雨粒が大きい。
湖に波紋が増えていく。

「相手は化け物でも……」

少し考え込み、シュウさんは真剣な顔で僕に言った。

「ま、逃げることは可能だろう」

……

ザッ、と一気に雨の勢いは増し、湖で大量の水滴が踊る。

「まずは、こっちだ」

シュウさんはサエさんを背負い、森の中に再び入った。
僕もそれに続いた。

「どうするんですか?」

あまりに確信に満ち、迷いのない顔で行動をするので、口を挟むつもりはなかった。
しかし、気になる。
あの黒部を、どうするのか。

「どうやら俺の能力は……知恵の向上……っぽい」

本当に向上したのだろうか?

「何故か自分の事はわからないけど……
 黒い奴がここから東南2320mのところまで迫ってるってこと、
 正確にこっちを目指していること、
 この通り雨はあと24分ほど降り続くこと、
 この山の地形、姉とお前の健康状態、ぐらいはわかるな」

なるほど。

逃げるのには最適ですね。

「そういうことだ。
 ……これだけ近いと黒いヤツが俺たちに追いつくのは時間の問題だ」

ふらふらの僕と人一人背負ったシュウさんでは、ね。

「そうだ。
 だから、悪あがきをしてみる」

シュウさんは上をちらっと見て、いたずらを考え付いた子供のように笑った。
森の道は突然のどしゃ降りによってぬかるみ、滑りやすくなっている。
が、どうしてかシュウさんは足場の悪い道を選んで進んでいる。
シュウさんの青い眼はぬかるんだ道など見てはいない。
違う何かを見ていた。

「あいつの速度は……今後の雨の量……方向……風ナシ……樹木、根、角度、重さ……可能性……うん、いける」

シュウさんの『青』がますます深い青になった気がした。

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