心臓が早鐘を撞くように鳴っている。
彼は相変わらずの中性的で整った顔立ちをしていた。
黒いスーツを着こなし、長い黒髪と黒い瞳に他の色は混ざっていない。
人の形はしているが、それはまさに、
完全な黒。完璧な黒。純粋な黒。
黒部……洋!
ヨウのとる行動は分かっていた。
最短で動かなければ、防ぎきれない。
上空戦闘後の着地の際に生じる、ほんの0コンマ数秒の隙で、奴は確実に彼女を破壊する。
いくらサエさんが超身体能力を誇っていても、隙がある時に攻撃されては、ひとたまりもない。
ヨウは右腕をサエさんに向け、薄く笑いながら唇を動かした。
ヤットアエタネ
刹那、黒部の右腕が一瞬で黒に染まり、物凄い速さでサエさんに向かって伸びた。
一瞬で30メートル以上も伸びた黒い腕。
常識が通用しないのか、この男は!
サエさんを庇い白の右腕で黒い右腕を受ける。
衝撃。
轟音。
と共に白と黒の点滅が視界を覆った。
脚は地面にめり込み、右腕は激しく震えた。
まるで黒いビーム砲を受けたようだ。
黒のエネルギーが僕の右腕にふれる寸前で白によって分散し、黒い糸となって様々な方向に流れた。
右腕が衝撃によって震えるのを必死に押さえ、肩が外れそうになるのを堪える。
黒い糸のいくつかが僕の体に小さな穴を開けたが、今は構っていられなかった。
僕の背後にいたサエさんの反応は素早かった。
彼女は全身に広がろうとしていた赤を両脚に集中させ、一気に黒部に向かい、跳躍した。
が、逆に彼女の素早すぎる行動が、
駄目だ。
僕はあまりにも速すぎる彼女を止めることができない。
眼で追うことしかできず、次の瞬間、ヨウに黒の左腕で貫かれるサエさんが脳裏に浮かんだ。
右腕をやる!
強力な白光。
僕の白の明度と彩度が、つまりは力が一気に跳ね上がり、右腕はカタチを保てなくなって消失した。
次の瞬間、白のエネルギーが黒のエネルギーを弾きながらヨウに向かって一直線に伸びた。
先ほどのヨウ式黒の右腕砲とは比にはならないほど強力なエイスケ式白の右腕砲を、僕はヨウに向けて放った。
今まさにサエさんを壊そうとした、ヨウの表情は……驚愕と……喜びが同時に浮かんでいた。
ヨウはまともに僕の白の右腕砲を受けて、ありえないほど回転しながら吹っ飛んでいった。
僕の右腕はなくなり、少し熱を帯びたのか肩口から煙が出ている。
捨て身は成功だ!
だが、時間稼ぎが精一杯だ。(右腕一本で済んだのなら安いが)
素早く行動しなければ。
声が出るとか出ないとか、関係がなかった。
「逃げろ!」
声として出たかはわからなかったが、確かに伝わった。
サエさんはすぐに動き、シュウさんを脇に抱えて、僕の傍にも来た。
その際、僕はもう少し時間を稼ぐと伝えたはずなのだが、黙殺された。
体から重力の感覚が消えて、次に物凄い風圧を感じた。
流石にサエさんでも、大の男二人を抱えてヨウから逃げ切るには、無理がある。
僕を置いていってください。
……伝わっているはずなのだが。
------------------
「効いた……! 効いたよ……白瀬英輔!」
白の衝撃によりカタチが保てなくなり、黒が体の所々から噴出しているのを気にも留めず、黒部洋は笑いを堪えていた。
「渾身、捨て身の右ストレート……良い! イイ!」
黒部は耐えられない、といった様子で体を仰け反り、頭を掻き毟った。
少し見ないうちに、凄まじい成長を遂げている。
それでも尚、白を保ち続ける。
白瀬英輔。
黒部は彼に好意を超えた感情を抱いていた。
少しの間そうしている内に、体はすっかり人のカタチを取り戻した。
黒いスーツも汚れ一つ付いていない状態に再生された。
「やはり、シラセ……エイスケは、世界の、滅亡のために、俺に、僕に必要だ……」
違うだろ?
ピタ、と黒部は動きを止めた。
真っ黒な心の中に黒と自分を映した鏡を見つけた。
鏡の中の黒部洋は否定をしていた。
違うだろ?
鏡はすぐにヒビが入り、砕け散った。
違うだろう?
彼は相変わらずの中性的で整った顔立ちをしていた。
黒いスーツを着こなし、長い黒髪と黒い瞳に他の色は混ざっていない。
人の形はしているが、それはまさに、
完全な黒。完璧な黒。純粋な黒。
黒部……洋!
ヨウのとる行動は分かっていた。
最短で動かなければ、防ぎきれない。
上空戦闘後の着地の際に生じる、ほんの0コンマ数秒の隙で、奴は確実に彼女を破壊する。
いくらサエさんが超身体能力を誇っていても、隙がある時に攻撃されては、ひとたまりもない。
ヨウは右腕をサエさんに向け、薄く笑いながら唇を動かした。
ヤットアエタネ
刹那、黒部の右腕が一瞬で黒に染まり、物凄い速さでサエさんに向かって伸びた。
一瞬で30メートル以上も伸びた黒い腕。
常識が通用しないのか、この男は!
サエさんを庇い白の右腕で黒い右腕を受ける。
衝撃。
轟音。
と共に白と黒の点滅が視界を覆った。
脚は地面にめり込み、右腕は激しく震えた。
まるで黒いビーム砲を受けたようだ。
黒のエネルギーが僕の右腕にふれる寸前で白によって分散し、黒い糸となって様々な方向に流れた。
右腕が衝撃によって震えるのを必死に押さえ、肩が外れそうになるのを堪える。
黒い糸のいくつかが僕の体に小さな穴を開けたが、今は構っていられなかった。
僕の背後にいたサエさんの反応は素早かった。
彼女は全身に広がろうとしていた赤を両脚に集中させ、一気に黒部に向かい、跳躍した。
が、逆に彼女の素早すぎる行動が、
駄目だ。
僕はあまりにも速すぎる彼女を止めることができない。
眼で追うことしかできず、次の瞬間、ヨウに黒の左腕で貫かれるサエさんが脳裏に浮かんだ。
右腕をやる!
強力な白光。
僕の白の明度と彩度が、つまりは力が一気に跳ね上がり、右腕はカタチを保てなくなって消失した。
次の瞬間、白のエネルギーが黒のエネルギーを弾きながらヨウに向かって一直線に伸びた。
先ほどのヨウ式黒の右腕砲とは比にはならないほど強力なエイスケ式白の右腕砲を、僕はヨウに向けて放った。
今まさにサエさんを壊そうとした、ヨウの表情は……驚愕と……喜びが同時に浮かんでいた。
ヨウはまともに僕の白の右腕砲を受けて、ありえないほど回転しながら吹っ飛んでいった。
僕の右腕はなくなり、少し熱を帯びたのか肩口から煙が出ている。
捨て身は成功だ!
だが、時間稼ぎが精一杯だ。(右腕一本で済んだのなら安いが)
素早く行動しなければ。
声が出るとか出ないとか、関係がなかった。
「逃げろ!」
声として出たかはわからなかったが、確かに伝わった。
サエさんはすぐに動き、シュウさんを脇に抱えて、僕の傍にも来た。
その際、僕はもう少し時間を稼ぐと伝えたはずなのだが、黙殺された。
体から重力の感覚が消えて、次に物凄い風圧を感じた。
流石にサエさんでも、大の男二人を抱えてヨウから逃げ切るには、無理がある。
僕を置いていってください。
……伝わっているはずなのだが。
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「効いた……! 効いたよ……白瀬英輔!」
白の衝撃によりカタチが保てなくなり、黒が体の所々から噴出しているのを気にも留めず、黒部洋は笑いを堪えていた。
「渾身、捨て身の右ストレート……良い! イイ!」
黒部は耐えられない、といった様子で体を仰け反り、頭を掻き毟った。
少し見ないうちに、凄まじい成長を遂げている。
それでも尚、白を保ち続ける。
白瀬英輔。
黒部は彼に好意を超えた感情を抱いていた。
少しの間そうしている内に、体はすっかり人のカタチを取り戻した。
黒いスーツも汚れ一つ付いていない状態に再生された。
「やはり、シラセ……エイスケは、世界の、滅亡のために、俺に、僕に必要だ……」
違うだろ?
ピタ、と黒部は動きを止めた。
真っ黒な心の中に黒と自分を映した鏡を見つけた。
鏡の中の黒部洋は否定をしていた。
違うだろ?
鏡はすぐにヒビが入り、砕け散った。
違うだろう?
コメント
それが私のモットーです。