8、夜 【よる】

2006年4月11日 100題
不思議。
感情が高揚している。
それを冷静に認識している私、高橋冴がいる。
物凄い数の黒い影がいる。
上下前後左右360度全てが影で、少し間違えば、死ぬ。
今までにない危機なのに、心の奥底から、力が湧き上がってくる。
勇気、情熱、活力、興奮。
真っ赤に染まった脳内。
今までにない高さの集中力、認識力、判断力。
……今なら何でもできる気がする。

下から突き出してた影の手を蹴り飛ばし、その反動で回し蹴りを放ち、後ろにいた影達を蹴り飛ばす。
上からの攻撃を上体をひねってかわし、自分の落下運動を利用して下から迫る影を蹴り飛ばし、その反動でまた上昇する。
上空の影を蹴り飛ばして、その反動×落下スピードで下方の影に蹴りを入れる。
そうして猛スピードの上下運動を数回繰り返し、その際も迫る影の攻撃は全て最低限の動きでかわし、蹴りを叩き込む。
本来、人ではありえない程の反射神経と運動能力が必要でも、赤の効果が全身に及ぼうとしている私には関係がなかった。
その後走るように前後左右の影達を踏みつけ、一体を踏み台にさらに上空に飛び出した。
上空数十メートルの戦いでも、恐怖はない。
むしろ、これは、なんだろう、喜び?

強い。私は、強い。
30に近い数の、影達が次々と消えていくと、
先ほどまでは全く見えなかった赤い夜空が見えてきた。
まるで暗雲を自分の力で切り裂いているようだ。
私はその感覚に酔いしれていた。

誰かの必死な叫びが聞こえたような気がした。
私の中の燃え盛る炎に、水を被せるような、必死の叫びが。

(止めて!)

何故? 疑問に思いながらも、その必死さに何かを感じ、激しく燃える炎の赤を抑える努力をする。
しかし、最早全身に広がろうとしていた赤の発現は、中々抑えられない。
大半の影を片付け、地面に着地する。
赤の発現により高められた身体能力は、数十メートルの落下も苦にはしなかった。

……が、人影が見えた。
シュウでもシラセでもない、知らない誰かの……人影。

その瞬間、背筋が凍った。

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