1週間同じ光景が続いていても飽きはしない。
最早その光景は網膜に張り付いているので、飽きたとか飽きないとか何かを考えるのは無駄だ。

赤と灰色の世界。

僕、白瀬英輔は……(自分の名前さえ忘れそうだ)

黒部洋(親友だ、確か)を探していた。

アスファルトの道路を歩く。
思えば、平凡な僕は誰かに舗装された道しか歩いてこなかったな。
何の脈絡もなくそう思った僕は、舗装のされていない道を探そうとして。

ズゥウウン、と地面が揺れるほどの音と衝撃を感じたのはその時だった。
そう遠くはない場所で、何かがあった。
音、衝撃の本へ迷わず走り出す。
空の赤が濃くなってきた。
時計があったならば多分6時ごろを指していただろう。

目の前で信じられない光景が繰り広げられていた。
普通の人間ならば歯が立たないはずの黒い影が、一人の※女性※に蹴り飛ばされていた。
かかと落とし、ロー、ミドル、ハイキック。
女性の蹴りが黒い影に命中するたび、物凄い音と衝撃が大気と大地を揺らした。
目にも留まらぬ猛スピードで猛威力のキックを……痛そう。
最後にトドメの回し蹴り。
これはトドメなだけに、最大級(当社比・推測)の威力だった。
黒い影は芸術的に吹っ飛ばされ、瓦礫にあたりながらはるか彼方に消えていった。
女性ははぁっと息を吐くと、蹴りのフィニッシュで止めていた足を下ろした。
よくみると彼女の両足は、ほのかに赤く光っていた。

「黒い影を蹴飛ばせる姉を持つ弟は、世界で俺だけだろうな」
突っ立っていただけの青年が言う。
「家を壊した罪は万死に値する。例え黒い影だろうが弟だろうがな」
声も容姿も確かに女性だ。
世界は広い。
「まて、俺は壊してないぞ」
どうやら軽い行違いがあるようだ。

ドアが壊れた家と、物凄く強い女性と、変な汗を流している青年が、薄暗闇に佇んでいた。
ちょっと離れたところに僕が立っている。
さらにその周りを大量の黒い影。
包囲完了ということか。

不思議と負ける気はしなかった。

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