黒部は指揮棒を振っていた。
それに応じるように動く黒い影。

黒い影が赤い空を覆いつくし、
逃げ惑う人々を取り込み、消し去る。

影に触れた物質は消失する。
影が通ったとき一部が消失した建物はバランスが保てなくなり次々に崩れる。

倒壊音、悲鳴、黒い影の風、遠くで轟く雷鳴、何かが落ちる音。

それらの奏でるハーモニーに黒部は陶酔する。
阿鼻叫喚の世界。
素晴らしい。
「世界の破滅」を奏でよう。
完全なる『美』を作り出そう。
しかしそれには音が足りない。
例えるなら、ソプラノ。
誰にも触れられない、侵せない領域にある音。
……白瀬? どこにいる?

黒部は指揮棒を放り出すと堪えきれないといった様子で笑い出した。
演奏は終わりに近づいている。

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