今日も空は真っ赤に晴れている。
瓦礫の町は動くものはなく。
コンクリートとアスファルト、黒煙だけの灰色と赤の世界。
人の亡骸の上に群がるカラス。
川は空の色が移り真っ赤。
血のように真っ赤。
世界が滅びかけて一ヶ月経った。
青い空が赤に染まって一ヶ月経った。
人の声が聞こえなくなって一ヶ月経った。
崩れかけながらもかろうじて繋がっている橋を渡る。
崩れかけていてもコンクリートでできた橋は僕の体重なんてものともしない。
赤い川を眺めながら渡る。
最後に人の声を聞いたのは何時だったっけ?
あてもなく歩く。
と、赤の中に白い点が見えた。
迷うことなく川に飛び込む。
赤色に染まった水は冷たかった。
助けた子犬と共にまた灰色と赤の世界を歩き出す。
今日から子犬の食べ物も探さなければならない。
まぁいざとなれば僕の食べる分をあげればいいか。
一週間ほど歩いた。
相変わらず瓦礫と黒煙しか見えない。
黒煙は非常に薄い毒らしい。
人類に緩慢な死を約束している毒だ。
夜になると赤い空は濃い赤の空に変わる。
固まった血液のような色だ。
申し訳ない、良い表現が見当たらなかったんだ。
子犬は心なしか少し大きくなった。
また一週間が経った。
子犬はすっかり僕になついている。
僕の真後ろを同じ速度でちょこちょこと歩く。
餌も自分で調達しているようだ。
また一週間が経つ。
本当にどれだけ経ったのだろうか。
最後に人の声を聞いてから、今まで。
人に出会った。
彼女は僕の名前を聞いてきた。
「白瀬英輔」
また、彼女の名前は、
「古藤枝理」
彼女の話によると、近くに小さな村があるらしい。
この世界で村があるとは驚きだ。訪ねることにする。
僕は歓迎はされなかった。
仕方がない。
皆今日を生きるのに必死なだけだった。
彼女に迷惑をかけるわけにはいかなかったので、夜、村を出た。
遠くになった村を見ると、何故か視界がにじんだ。
涙だ。
それは寂しさからくる涙じゃなかった。
安心。
後ろをちょこちょこと子犬がついてくる。
「子犬」じゃ不便なので「ポチ」と名付けることにした。
朝になる前。
大量の黒い影が村の方へ飛んでいくのを目撃した。
僕は胸騒ぎを覚えてすぐに駆け出した。
毎日歩いていた所為か、体力は落ちていない。
大丈夫、走れる。
ポチは同じ速度で僕についてきた。
「お前は逃げろ!」
犬に話しかける僕は滑稽だろうか。
ポチは僕の声にかまわず走っている。
意味が分からないのではない、多分意味が分かって走っているんだと思う。
村の方向に黒煙が見えた。
不安が的中する。
村には黒い影が群がっていた。
すぐに飛び込み、襲われそうになっている村人の前にでる。
僕は村人の代わりに犠牲になり、意識が途切れた。
……
「おい、大丈夫か」
眼を開いたが閉じた状態と同じくらい暗かった。
近くに息遣いを感じて顔を横に倒すと、嬉しそうなポチが目の前に居た。
「こいつが気絶したお前さんを運んでくれたんだ。感謝するんだな」
改めて見ると子犬とは言えないほどポチは成長していた。
僕はポチに小さい声でありがとうと言った。
「……昨日は悪かったな。追い出しちまって」
この声には聞き覚えがあった。
昨日、僕にすまなさそうに村を出て行ってくれと告げた村人だ。
全然気にしてませんと答え、僕は状況を尋ねた。
「ここは村近くの洞窟だ。とりあえず村人は一時的にここに隠れている。黒い奴らは……村を破壊してるようだ」
あいつらは本当に破壊が好きだな。
ため息が出た。
「あの……先ほどはありがとうございました」
どうやら僕が必死で助けた村人は、僕を村に連れて行ってくれた古藤さんだったようだ。
世界は狭い。
「あいつらがここにきたらおしまいだぞ……」
「どうする……」
ざわざわと村人の声が聞こえる。
この暗い洞窟に何十人もの人間が詰まっている。
もしも発見されたら、一網打尽というやつだ。
僕はゆっくりと立ち上がると、出口の方向を聞いた。
「え? 白瀬君?」
古藤さんの声を振り切って僕は洞窟から飛び出した。
朝に近づくほどだんだん赤くなる空の下に。
どうやら村を囲む山の中にこの洞窟があったらしい。
はるか下方に黒い影がうごめく村が見えた。
ためらうことなく僕は走り出した。
後ろにはポチがいる。
言っても無駄だろう、僕は走る。
後ろから何人かの村人と彼女の声が聞こえた。
下りのスピードは半端がない。
が、スピードを落とす気もさらさらない。
ポチは僕の落ちるようなスピードにもついてきている。
スグ目の前まで黒い影達が迫った。
僕は迷うことなく右腕を突き出し、一匹一匹の心臓を抜き取った。
黒い影達に感情はなく、仲間がやられても微動だにしない。
ただ動く僕とポチを壊そうとするだけだ。
ポチも走り回って黒い影をかく乱している。
幾度か黒い影に触れて皮膚と肉が切れた。
血が頬を伝い、腕を振るうたびに血の滴が飛んでも気にしなかった。
体中に傷を負っても、
脳に全身から痛みを知らせる信号が送られてきても、
僕は淡く白く光る右腕を突き出し、影の心臓を抜き取る。
黒い影達は次々に粒子状になり飛散した。
最後の一匹。
ポチに襲い掛かる影から心臓を抜き取った。
ポチを庇うために自分の左腕がなくなっても、僕は少し安心していた。
良かった、と。
すーっと意識が消えていく。
今度こそは起きれないかな?
ゆっくり休ませて貰うよ。
瓦礫の町は動くものはなく。
コンクリートとアスファルト、黒煙だけの灰色と赤の世界。
人の亡骸の上に群がるカラス。
川は空の色が移り真っ赤。
血のように真っ赤。
世界が滅びかけて一ヶ月経った。
青い空が赤に染まって一ヶ月経った。
人の声が聞こえなくなって一ヶ月経った。
崩れかけながらもかろうじて繋がっている橋を渡る。
崩れかけていてもコンクリートでできた橋は僕の体重なんてものともしない。
赤い川を眺めながら渡る。
最後に人の声を聞いたのは何時だったっけ?
あてもなく歩く。
と、赤の中に白い点が見えた。
迷うことなく川に飛び込む。
赤色に染まった水は冷たかった。
助けた子犬と共にまた灰色と赤の世界を歩き出す。
今日から子犬の食べ物も探さなければならない。
まぁいざとなれば僕の食べる分をあげればいいか。
一週間ほど歩いた。
相変わらず瓦礫と黒煙しか見えない。
黒煙は非常に薄い毒らしい。
人類に緩慢な死を約束している毒だ。
夜になると赤い空は濃い赤の空に変わる。
固まった血液のような色だ。
申し訳ない、良い表現が見当たらなかったんだ。
子犬は心なしか少し大きくなった。
また一週間が経った。
子犬はすっかり僕になついている。
僕の真後ろを同じ速度でちょこちょこと歩く。
餌も自分で調達しているようだ。
また一週間が経つ。
本当にどれだけ経ったのだろうか。
最後に人の声を聞いてから、今まで。
人に出会った。
彼女は僕の名前を聞いてきた。
「白瀬英輔」
また、彼女の名前は、
「古藤枝理」
彼女の話によると、近くに小さな村があるらしい。
この世界で村があるとは驚きだ。訪ねることにする。
僕は歓迎はされなかった。
仕方がない。
皆今日を生きるのに必死なだけだった。
彼女に迷惑をかけるわけにはいかなかったので、夜、村を出た。
遠くになった村を見ると、何故か視界がにじんだ。
涙だ。
それは寂しさからくる涙じゃなかった。
安心。
後ろをちょこちょこと子犬がついてくる。
「子犬」じゃ不便なので「ポチ」と名付けることにした。
朝になる前。
大量の黒い影が村の方へ飛んでいくのを目撃した。
僕は胸騒ぎを覚えてすぐに駆け出した。
毎日歩いていた所為か、体力は落ちていない。
大丈夫、走れる。
ポチは同じ速度で僕についてきた。
「お前は逃げろ!」
犬に話しかける僕は滑稽だろうか。
ポチは僕の声にかまわず走っている。
意味が分からないのではない、多分意味が分かって走っているんだと思う。
村の方向に黒煙が見えた。
不安が的中する。
村には黒い影が群がっていた。
すぐに飛び込み、襲われそうになっている村人の前にでる。
僕は村人の代わりに犠牲になり、意識が途切れた。
……
「おい、大丈夫か」
眼を開いたが閉じた状態と同じくらい暗かった。
近くに息遣いを感じて顔を横に倒すと、嬉しそうなポチが目の前に居た。
「こいつが気絶したお前さんを運んでくれたんだ。感謝するんだな」
改めて見ると子犬とは言えないほどポチは成長していた。
僕はポチに小さい声でありがとうと言った。
「……昨日は悪かったな。追い出しちまって」
この声には聞き覚えがあった。
昨日、僕にすまなさそうに村を出て行ってくれと告げた村人だ。
全然気にしてませんと答え、僕は状況を尋ねた。
「ここは村近くの洞窟だ。とりあえず村人は一時的にここに隠れている。黒い奴らは……村を破壊してるようだ」
あいつらは本当に破壊が好きだな。
ため息が出た。
「あの……先ほどはありがとうございました」
どうやら僕が必死で助けた村人は、僕を村に連れて行ってくれた古藤さんだったようだ。
世界は狭い。
「あいつらがここにきたらおしまいだぞ……」
「どうする……」
ざわざわと村人の声が聞こえる。
この暗い洞窟に何十人もの人間が詰まっている。
もしも発見されたら、一網打尽というやつだ。
僕はゆっくりと立ち上がると、出口の方向を聞いた。
「え? 白瀬君?」
古藤さんの声を振り切って僕は洞窟から飛び出した。
朝に近づくほどだんだん赤くなる空の下に。
どうやら村を囲む山の中にこの洞窟があったらしい。
はるか下方に黒い影がうごめく村が見えた。
ためらうことなく僕は走り出した。
後ろにはポチがいる。
言っても無駄だろう、僕は走る。
後ろから何人かの村人と彼女の声が聞こえた。
下りのスピードは半端がない。
が、スピードを落とす気もさらさらない。
ポチは僕の落ちるようなスピードにもついてきている。
スグ目の前まで黒い影達が迫った。
僕は迷うことなく右腕を突き出し、一匹一匹の心臓を抜き取った。
黒い影達に感情はなく、仲間がやられても微動だにしない。
ただ動く僕とポチを壊そうとするだけだ。
ポチも走り回って黒い影をかく乱している。
幾度か黒い影に触れて皮膚と肉が切れた。
血が頬を伝い、腕を振るうたびに血の滴が飛んでも気にしなかった。
体中に傷を負っても、
脳に全身から痛みを知らせる信号が送られてきても、
僕は淡く白く光る右腕を突き出し、影の心臓を抜き取る。
黒い影達は次々に粒子状になり飛散した。
最後の一匹。
ポチに襲い掛かる影から心臓を抜き取った。
ポチを庇うために自分の左腕がなくなっても、僕は少し安心していた。
良かった、と。
すーっと意識が消えていく。
今度こそは起きれないかな?
ゆっくり休ませて貰うよ。
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