赤空

2006年3月26日 妄想
今日も空は真っ赤に晴れている。
瓦礫の町は動くものはなく。
コンクリートとアスファルト、黒煙だけの灰色と赤の世界。
人の亡骸の上に群がるカラス。
川は空の色が移り真っ赤。
血のように真っ赤。

世界が滅びかけて一ヶ月経った。
青い空が赤に染まって一ヶ月経った。
人の声が聞こえなくなって一ヶ月経った。

崩れかけながらもかろうじて繋がっている橋を渡る。
崩れかけていてもコンクリートでできた橋は僕の体重なんてものともしない。
赤い川を眺めながら渡る。
最後に人の声を聞いたのは何時だったっけ?
あてもなく歩く。

と、赤の中に白い点が見えた。
迷うことなく川に飛び込む。
赤色に染まった水は冷たかった。

助けた子犬と共にまた灰色と赤の世界を歩き出す。
今日から子犬の食べ物も探さなければならない。
まぁいざとなれば僕の食べる分をあげればいいか。

一週間ほど歩いた。
相変わらず瓦礫と黒煙しか見えない。
黒煙は非常に薄い毒らしい。
人類に緩慢な死を約束している毒だ。

夜になると赤い空は濃い赤の空に変わる。
固まった血液のような色だ。
申し訳ない、良い表現が見当たらなかったんだ。
子犬は心なしか少し大きくなった。

また一週間が経った。
子犬はすっかり僕になついている。
僕の真後ろを同じ速度でちょこちょこと歩く。
餌も自分で調達しているようだ。

また一週間が経つ。
本当にどれだけ経ったのだろうか。
最後に人の声を聞いてから、今まで。

人に出会った。
彼女は僕の名前を聞いてきた。
「白瀬英輔」
また、彼女の名前は、
「古藤枝理」
彼女の話によると、近くに小さな村があるらしい。
この世界で村があるとは驚きだ。訪ねることにする。

僕は歓迎はされなかった。
仕方がない。
皆今日を生きるのに必死なだけだった。
彼女に迷惑をかけるわけにはいかなかったので、夜、村を出た。

遠くになった村を見ると、何故か視界がにじんだ。
涙だ。
それは寂しさからくる涙じゃなかった。
安心。
後ろをちょこちょこと子犬がついてくる。
「子犬」じゃ不便なので「ポチ」と名付けることにした。

朝になる前。
大量の黒い影が村の方へ飛んでいくのを目撃した。
僕は胸騒ぎを覚えてすぐに駆け出した。
毎日歩いていた所為か、体力は落ちていない。
大丈夫、走れる。
ポチは同じ速度で僕についてきた。
「お前は逃げろ!」
犬に話しかける僕は滑稽だろうか。
ポチは僕の声にかまわず走っている。
意味が分からないのではない、多分意味が分かって走っているんだと思う。

村の方向に黒煙が見えた。
不安が的中する。
村には黒い影が群がっていた。
すぐに飛び込み、襲われそうになっている村人の前にでる。
僕は村人の代わりに犠牲になり、意識が途切れた。

……

「おい、大丈夫か」
眼を開いたが閉じた状態と同じくらい暗かった。
近くに息遣いを感じて顔を横に倒すと、嬉しそうなポチが目の前に居た。
「こいつが気絶したお前さんを運んでくれたんだ。感謝するんだな」
改めて見ると子犬とは言えないほどポチは成長していた。
僕はポチに小さい声でありがとうと言った。
「……昨日は悪かったな。追い出しちまって」
この声には聞き覚えがあった。
昨日、僕にすまなさそうに村を出て行ってくれと告げた村人だ。
全然気にしてませんと答え、僕は状況を尋ねた。
「ここは村近くの洞窟だ。とりあえず村人は一時的にここに隠れている。黒い奴らは……村を破壊してるようだ」
あいつらは本当に破壊が好きだな。
ため息が出た。
「あの……先ほどはありがとうございました」
どうやら僕が必死で助けた村人は、僕を村に連れて行ってくれた古藤さんだったようだ。
世界は狭い。
「あいつらがここにきたらおしまいだぞ……」
「どうする……」
ざわざわと村人の声が聞こえる。
この暗い洞窟に何十人もの人間が詰まっている。
もしも発見されたら、一網打尽というやつだ。

僕はゆっくりと立ち上がると、出口の方向を聞いた。
「え? 白瀬君?」
古藤さんの声を振り切って僕は洞窟から飛び出した。
朝に近づくほどだんだん赤くなる空の下に。
どうやら村を囲む山の中にこの洞窟があったらしい。
はるか下方に黒い影がうごめく村が見えた。
ためらうことなく僕は走り出した。
後ろにはポチがいる。
言っても無駄だろう、僕は走る。
後ろから何人かの村人と彼女の声が聞こえた。
下りのスピードは半端がない。
が、スピードを落とす気もさらさらない。
ポチは僕の落ちるようなスピードにもついてきている。
スグ目の前まで黒い影達が迫った。
僕は迷うことなく右腕を突き出し、一匹一匹の心臓を抜き取った。
黒い影達に感情はなく、仲間がやられても微動だにしない。
ただ動く僕とポチを壊そうとするだけだ。
ポチも走り回って黒い影をかく乱している。
幾度か黒い影に触れて皮膚と肉が切れた。
血が頬を伝い、腕を振るうたびに血の滴が飛んでも気にしなかった。
体中に傷を負っても、
脳に全身から痛みを知らせる信号が送られてきても、
僕は淡く白く光る右腕を突き出し、影の心臓を抜き取る。
黒い影達は次々に粒子状になり飛散した。
最後の一匹。
ポチに襲い掛かる影から心臓を抜き取った。
ポチを庇うために自分の左腕がなくなっても、僕は少し安心していた。

良かった、と。

すーっと意識が消えていく。
今度こそは起きれないかな?
ゆっくり休ませて貰うよ。

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