とある山中を男二人組みが必死に走っていた。
「兄貴。ここまでくれば大丈夫じゃないですかね」
「バカヤロウ。油断してると捕まるぞ」
隠すこともないので明かすが、二人は1時間ほど前に銀行強盗を行い旅行用カバン一杯に札束を詰めていた。しかも悪運がかなり強いらしく、うまく逃げ果せていた。
二人組みの男はそれから車を使って人気の無い方に向かい、最終的には警察の裏を書いて山を徒歩で越えることになった。
「へへへ、これだけあればなんでもできますぜ」
「まあ、落ち着け。ムショに入っちまったらなにもできなくなる。今は逃げ切ることだけを考えろ」
少し頭の悪い弟分を似非クールな兄貴分が諌める。典型的な犯罪コンビだが今のところ順調だ。
今の季節は春。○○県の田舎の山の中。空を見ようとすると、真昼間の太陽の逆光によって黒く染まった葉が切り絵のように見えた。小鳥が囀っているが二人組みに小鳥のことを考えるゆとりはない。
「兄貴! あれはなんですかね」
弟分の指の先を見ると、茶色く四角い物体が山頂付近にそびえたっていた。
小屋だった。ぎこちなくきられた丸太が釘等を一切使わずに積み上げられてできている。しかし、兄貴分が思いっきり蹴りを入れても、小屋はビクともしなかった。
「安っぽい小屋にしては丈夫だな。この小屋を作ったのはかなりの職人だぜ」
知った顔で話すと、兄貴分は小屋にさっさと入ってしまった。
「兄貴! 山は越えないんですかい!?」
「バカヤロウ。よく考えてみろ。山を越えて町や村についてみろ。サツがまだうろついてるかもしれねえじゃねえか。とりあえずここでほとぼりが冷めるのを待つんだよ。まさか銀行強盗犯が山でキャンプしてるなんて誰も思うめえ」
「さっすが兄貴!」
ということで二人組みの強盗は山でしばらくほとぼりを冷ますことにしたのだった。
兄貴分は小屋の中を一通り眺めると、
「一応、札束は隠しとけ。万が一、百万が一の時のためだがな」
と言った。かなり用心深い。
「へい、床下に隠しときます」
弟分は従順だった。
それからしばらく、その二人組みは山中で自給自足生活をすることになった。
幸い近くには川もあり、水と魚の確保が可能。小屋自体は木に覆われて上空からは確認できないし、人がきている、または来る気配は全くなかった。隠れて生活するのに、これほど良い環境はそうそうないだろう。
しかし自然はときには厳しく、ときにはやさしかった。水の確保は川があったので困らなかったが、食料はかなり労力を要した。火をおこすのに気力を使い、また火の煙に神経をつかった(しばらくすると煙に神経をつかうのはやめたが)。
二人はHPとMPが下がっても、ウサギをとったり山菜をとったり、ときには石に落書きをしたり、心底自然を楽しんだ。HPとMPの回復量が消費量を上回ったとき、二人は完全な自給自足を実現した。自然に惚れこんだ。1週間がたち、2週間がたち、1ヶ月がたち、1日1日必死で、しかし楽しく暮らしていった。
「兄貴! 蛇を捕まえやした!」
「なんだと! 大物じゃねえか! さっそくカバ焼きにすっぞ!」
適応能力が高かった二人組みはそうして10年も山の中で暮らした。春、夏、秋、冬。季節の変化も全て楽しんだ。
オチはこうだ。
「兄貴、昨日床下でこんなもの見つけました」
それは10年前に埋めた旅行用カバン。つまりは札束のつまったカバンである。
「なんだこれ?」
「さあ……なんだか大事な物だったような気がしますが、思い出せません」
「うーん……俺も思い出せないが、いい事を思いついたぞ」
「なんですか?」
「燃料にしよう。この紙はよく燃えそうだろう」
「さっすが兄貴!」
「兄貴。ここまでくれば大丈夫じゃないですかね」
「バカヤロウ。油断してると捕まるぞ」
隠すこともないので明かすが、二人は1時間ほど前に銀行強盗を行い旅行用カバン一杯に札束を詰めていた。しかも悪運がかなり強いらしく、うまく逃げ果せていた。
二人組みの男はそれから車を使って人気の無い方に向かい、最終的には警察の裏を書いて山を徒歩で越えることになった。
「へへへ、これだけあればなんでもできますぜ」
「まあ、落ち着け。ムショに入っちまったらなにもできなくなる。今は逃げ切ることだけを考えろ」
少し頭の悪い弟分を似非クールな兄貴分が諌める。典型的な犯罪コンビだが今のところ順調だ。
今の季節は春。○○県の田舎の山の中。空を見ようとすると、真昼間の太陽の逆光によって黒く染まった葉が切り絵のように見えた。小鳥が囀っているが二人組みに小鳥のことを考えるゆとりはない。
「兄貴! あれはなんですかね」
弟分の指の先を見ると、茶色く四角い物体が山頂付近にそびえたっていた。
小屋だった。ぎこちなくきられた丸太が釘等を一切使わずに積み上げられてできている。しかし、兄貴分が思いっきり蹴りを入れても、小屋はビクともしなかった。
「安っぽい小屋にしては丈夫だな。この小屋を作ったのはかなりの職人だぜ」
知った顔で話すと、兄貴分は小屋にさっさと入ってしまった。
「兄貴! 山は越えないんですかい!?」
「バカヤロウ。よく考えてみろ。山を越えて町や村についてみろ。サツがまだうろついてるかもしれねえじゃねえか。とりあえずここでほとぼりが冷めるのを待つんだよ。まさか銀行強盗犯が山でキャンプしてるなんて誰も思うめえ」
「さっすが兄貴!」
ということで二人組みの強盗は山でしばらくほとぼりを冷ますことにしたのだった。
兄貴分は小屋の中を一通り眺めると、
「一応、札束は隠しとけ。万が一、百万が一の時のためだがな」
と言った。かなり用心深い。
「へい、床下に隠しときます」
弟分は従順だった。
それからしばらく、その二人組みは山中で自給自足生活をすることになった。
幸い近くには川もあり、水と魚の確保が可能。小屋自体は木に覆われて上空からは確認できないし、人がきている、または来る気配は全くなかった。隠れて生活するのに、これほど良い環境はそうそうないだろう。
しかし自然はときには厳しく、ときにはやさしかった。水の確保は川があったので困らなかったが、食料はかなり労力を要した。火をおこすのに気力を使い、また火の煙に神経をつかった(しばらくすると煙に神経をつかうのはやめたが)。
二人はHPとMPが下がっても、ウサギをとったり山菜をとったり、ときには石に落書きをしたり、心底自然を楽しんだ。HPとMPの回復量が消費量を上回ったとき、二人は完全な自給自足を実現した。自然に惚れこんだ。1週間がたち、2週間がたち、1ヶ月がたち、1日1日必死で、しかし楽しく暮らしていった。
「兄貴! 蛇を捕まえやした!」
「なんだと! 大物じゃねえか! さっそくカバ焼きにすっぞ!」
適応能力が高かった二人組みはそうして10年も山の中で暮らした。春、夏、秋、冬。季節の変化も全て楽しんだ。
オチはこうだ。
「兄貴、昨日床下でこんなもの見つけました」
それは10年前に埋めた旅行用カバン。つまりは札束のつまったカバンである。
「なんだこれ?」
「さあ……なんだか大事な物だったような気がしますが、思い出せません」
「うーん……俺も思い出せないが、いい事を思いついたぞ」
「なんですか?」
「燃料にしよう。この紙はよく燃えそうだろう」
「さっすが兄貴!」
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