メモリー

2006年2月4日
あらすじ
青木家長男(青木コウ)は、小学生時代、空想兄人形(青木カズキ)を作る。その後……不明。
両親行方不明、微妙な家庭環境の(神保ソウキ)は(青木コウ)と友達になるが、事故によりコウ君が死亡。
その後、ソウキ君は青の眼を得る。さらに10年後、ソウキ君は青木家屋敷前に立っていた。
少しの逡巡の後、屋敷に侵入したソウキ君。
そしてすぐに首吊り人形と遭遇。危機を感じて脱兎のごとく逃げ出す情けない主人公。
続きます。

たとえば大切な人を殺したとして、
その罪を償うにはどうしたらいいだろう。
自分の命? 違うよ。
一生罪を背負う事? うん、ある意味正しい。
お金? 死んじゃえ。

僕は人生全てを捧げる。

-記憶-

私は走っていた。
後ろからカシャカシャと木の人形が走っているような音が聞こえてくるのでそれはもう必死だ。その時私は無意識にある部屋へ向かっている事に気付いていなかった。
ズキン!
唐突に強力な頭痛。ぐにゃりと視界がゆがみ、倒れそうになった。
(駄目だ……!)
なるべく頭痛を気にしないように(到底無理だが)、体中の力を足に集め、そのまま走った。
ふらふらとしながらだったが、止まれば死ぬ。確信があった。
やがて一つのドアが薄闇の中で浮かび上がってるように見えた。
迷わず私はその部屋に入り、カギを閉めた。
いつのまにか木の人形の足音は消えていた。
ドアによりかかり、頭を抱える。
ズキン!
殺人的な頭痛だった。原因は恐らく行末を見たときの何かが切れた音だろう。
私の能力は周りから情報をよみとりそれで予測を立てるものだ。
当然その情報のよみとりも予測の組み立ても全て脳でやっている。
この屋敷の異常な情報は私の頭では処理しきれないということか。

青い眼も行末視も使えない。
状況は絶望的だった。
この眼と能力はこの日のために用意されていたのではないのか?
青木、一体どうして俺にこの眼をくれたんだ?
この思考は八つ当たりに近い。

ドン!

ドアに衝撃が走った。
どうやら人形が来たようだ。
頭痛を堪えて立ち上がり、ふらふらとベッドの横に移動する。
私はこの部屋に見覚えがあった。懐かしさもあった。何年もここに住んでいたような感覚。
突然

ガと ぃちャ

「ギャアアアアアア!」
痛覚にナイフを刺されたような物凄い頭痛が私を襲った。
その声は頭の中に何度も何度も響いた。

『ね、きょウテトでトったンヨ』

-やめてくれ!-

『おにいャんはしゃナイド、』

-やめてくれ!-

ぽたっ

血が滴る音がした。
崖下で倒れていたのは、青木コウだった。
違ウヨ
崖下で倒れているのは、私だった。
違ウヨ
崖下で倒れているのは、神保ソウキだった。
思い出して

白衣の先生が私のベッドの横に立っていた。

『君の名前は……?』

『神保……ソウキ』

白い部屋。顔には包帯。
心配そうな先生、クラスメイトの顔。

『担任の先生、この子が神保君ですね?』

『え? すみません。包帯の所為で顔が見えないので……』

『あ、いえ。一応の確認みたいなものですから。本人から名前を聞きましたし』

『そうなんですか。はい、この子は神保ソウキ君です』

ボクハジンボソウキ。
そうだよ。

『本当に気の毒にねぇ』

『事故でなくなった青木君。顔がぐちゃぐちゃだったそうよ。誰かわからないほどに』

『神保君も事故でお友達を無くしてすぐに、親戚の人たちも交通事故だなんて』

『本当にお気の毒ね。身寄りもないんでしょう』

僕を引き取りにきた人は

『学校の友達と会わなくていいの?』

『はい、寂しくなってしまいます』

『でも、先生とも友達とも、事故以来会ってないんでしょう? 養護施設に来たら、もう会えなくなるわよ?』

青木(本当に?)の葬式等は学校側がやった。その時両親が行方不明になった青木は、私(?)と似て身寄りがなくなっていた。

似ているといえばそれ以外の身体的特徴、血液型も一緒だった。
それもうまくいった一つの理由だろう。
顔の傷も治り、失明のことも聞いていたが、僕は顔から包帯をとらなかった。
それからクラスメイト、先生達とは会っていない。
僕と青木の顔を知る者には会っていない。会ってはイケナイ

それは、何故かうまく行き過ぎた。
どこかで止まればよかったのに。

『これからよろしくね、神保君』

『はい』

神保君。なあ、ソウキ。ソウキ君。神保! おーい、ソウキ! 神保! 神保君。 なあ、ソウキ。 ソウ! ソウキ! ソウキー ソウちゃん ジンボー。 ソウキ君? ジンボ! 神保君。なあ、ソウキ。ソウキ君。神保! おーい、ソウキ! 神保! 神保君。 なあ、ソウキ。 ソウキ! ソウキー ソウちゃん ソウキ ジンボー。 ソウキ君? ジンボ おい、神保君。 君 なあ、ソウキ。ソウキ君。神保! おーい、ソウキ! 神保! 神保君。 なあ、ソウキ。 ソウキ! ソウキー ソウちゃん ジンボー。 ソウキ君? ジンボ
ジンボソウキ

10年後。

青木家屋敷。

……

人形のドアをたたく音が聞こえる。
だが、今はどうでも良かった。
ベッドに横たわってる私……僕は、
罪から逃げ出したかったんだ。
神保君は僕をかばって、顔が潰れて、死んだ。
僕の所為で死んだ。僕が殺した。
僕は神保君になるために、罪から逃れるために、顔を岩に何回もぶつけた。
何回も何回も。とがった岩が眼に刺さったけど、痛かったけど。

神保君の親戚を殺したのも僕だろう。恐らくこの青い眼を使った。
両親が消えたのは都合が良かった。消したのは僕じゃないけど。

もちろん警察、病院の眼もあったが、
入れ替わりは実際に成功したのだ。

その後、養護施設で10年を過ごした。
「神保ソウキ」として……でも…・・・

僕は青木コウだ!

ズドン!
僕の部屋のドアが破られた。
木の人形が笑っている。

コメント

お気に入り日記の更新

最新のコメント

この日記について

日記内を検索