私は青い眼を持っている。

この眼を手に入れたのは、小学生の頃だ。
当時、私は自分で言うのもなんだが暗い子だった。
両親が行方不明になり、親戚の家に引き取られているという、よくありそうで微妙な家庭環境だったからだ。
私は良く、「人生に疲れた」と呟いていた。小学生のいう事ではない。早熟だったのだろう。口も達者。自慢するようだが成績も良かった。(小学生の頃の成績を自慢するのはなんだか辛い)

そんな私に負けないくらい成績が良かった男の子がいた。
苗字は確か青木だ。

青木はよくイジめられていた。
成績が良い上に、どこか弱々しいのだ。イジめたくもなる。
私も確かに暗かったが、弱々しいわけではなかった。なんというか芯が強かったと思う。(自慢するようだが)
そんな私だから、一応イジめは見過ごさなかった。
イジめを見かけた時にはやめろよとかそんな適当なことは言っていた気がする。
もちろん助けた私と青木は仲良くなった。
別に私は青木が弱々しいからといって嫌ったりはしなかったし、好きにもならなかった。
本当に小学生だったのだろうか、私は。

「僕のお父さんはね、大金持ちなんだ」

「屋敷も大きいんだよ。今度来なよ」

「僕のお母さんってハーフなんだって」

「だから僕の眼は青いのかな。馬鹿にされちゃうのかな」

無口な私は黙って話を聞いてるだけだったが、悪い時間ではなかった。

……青木はしばらくしてイジめを自分で解決したようだ。

季節は忘れたが、遠足に行った。
小学生時代の記憶の中で一番印象の強い出来事があった遠足。

山に行った。私の通っていた小学校は、比較的田舎の山中にあったので、遠足、昆虫採集、自給自足には困らなかった。
道は少し険しかったが、小学生でも登れる程度だったし、山頂には大きな広場があったのだ。
そこで私は青木と遊んでいた。何をしていたかは覚えていない。
いや、ボール遊びだった……私が投げたボールが、広場から出て、山の中へ転がっていった。
青木はそれを追いかけて、山の中へ入っていった。
広場は山頂だったので、青木は山を下ることになって、私の視界からすぐ消えた。

少ししてから私は、山頂広場で遊ぶ前、先生に、
「広場の外は危ないから、広場の中で遊びなさい」
というような事を言われていたのを思い出した。

……それは予感? 本能的なものだったが

急に胸が苦しくなり、息の仕方を忘れた。
強烈な不安が心を縛り、行方不明になった両親の背中が見えたような気がした。
あの時両親は、ちょっとでかけるように、消えたのだ。
日常から、なんでもないように、消えたのだ。
両親は振り向かなかった。

私は走り出した。何故走り出したか?
それは不安に押しつぶされないために。
それは青木のためではない。自分のために。
それは自分の投げたボールが広場から出た所為で、
それは自分がすぐに追いかけなかった所為で、

青木は崖から今にも落ちそうになっていた。
手だけで、宙に浮いた体を支えながら、

タスケテ

雷が落ちたようだった。
全身が震えた。
嫌だ!
いなくなるないなくなるないなくなるな!

ボクを置いていかないで。

両親の背中が浮かぶ。振り向かない背中。
私は必死に叫ぶ。声は出ない。

私はすぐさま体を乗り出し青木の手を掴んだ。
全て自分のためだ。勇気からの行動などではない。友達思いだからではない。
ただ私は「誰かがいなくなる」ことが、嫌だっただけだ。

その後、生徒二人がいなくなっていることに気付いた教師が、崖下で倒れれている私達を発見した。
私は青木に覆いかぶさるように意識不明の重傷。
青木は私を抱きとめるように、

死んでいた。

……ぁあぁあああ!!

……

とがった岩が刺さったのか、右目を失明した私は、また一人いなくなったことを悲しむだけだった。いや、置いていかれたことを悲しんでいるだけだった。

その夜、病院のベッドの中。
夢で

『ごめんね、僕の眼を、あげるからね』

……

青木は両親、兄と一緒に暮らしていると言っていた。
しかし、葬式に青木の家族が来ることはなかった。

しばらくして、青木の両親、家政婦が一度に行方不明になったという噂を聞いた。(兄についての噂はなかった)

今私の右目は正常に機能している。
医者に完全に失明したと告げられた右目は、私に青の世界を見せてくれている。
言うなれば、それは裏の世界。
普通に暮らしている人間には見えない、言わば死の世界だったが、詳しい説明は面倒なので省く。

あの日から、10年。
私は青木の屋敷の前に立っていた。
私が直接屋敷に訪れたことは、一度もなかった。
けど、知っている気がした。

「懐かしいか? 青木……」

そっと右目に手を当てる。

寂れに寂れ、朽ちに朽ち、周りからは『人形の館』と呼ばれている、元青木家の屋敷。
左目を閉じて、世界を青で染めると、屋敷全体から(青が濃すぎて)黒いオーラが立ち上っていた。

「……下手すれば死ぬぞこれ」

コメント

痺れ武蔵
痺れ武蔵
2006年1月19日0:18

続け!

雨月三水
雨月三水
2006年1月19日22:01

期待mage

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